赤くなるまで 待って ※エレン女体化注意。 ※みんな大学生。 「女子力って、どうやったら上がるんだ?」 はぁ?そりゃお前、その男みたいなしゃべり方や短い髪や、男か女かわかんねぇ味気ない服装をまずどうにかしろ。 その上でまだ足りないんなら聞きやがれ。 と、呆れたようにユミルに言われてエレンはしゅんとうなだれる。 「ユミルだって、似たようなもんじゃんか」 「うるさい。私はいいんだよ。クリスタがいるから」 大学の食堂で、トレイを両手に偶然鉢合わせした二人は、向かい合わせで定食をつついている。 特別、仲が良いというわけではない。普段からユミルは、高校が同じだったというクリスタとベッタリだし、エレンはエレンで幼なじみのミカサに日々ベッタリ付きまとわれている。 彼女たちとは授業のほとんどが被っているのだが、たまたま人気の授業の抽選に外れた二人は、昼前の一時間だけ、いつもの相棒と別の授業に出ている。 今日は、ミカサ達の授業が長引いているらしい。昼休みの食堂は混み合うし、先に席だけとって飯でも食いながら待ってよう、と思ったエレンだったが、ユミルも同じ考えのようだ。 四人分、食堂の隅に席を陣取り、お互い隣の席に荷物を置いて、もくもくと箸を進めていた。 ユミルがつついている鯖の味噌煮がうまそうで、そっちにすりゃよかったなぁ、とエレンは呟く。 その、色気より食い気なとこもどうにかしろ、とぴしゃりと言われて、再びへこんだ。 「クリスタが言ってたんだけど」 「ん?」 「ヒールがある靴を履け」 「は?」 ヒールが高いか低いかで、けっこう見た目の印象が変わるらしいぜ。 そう、口をモゴモゴさせながらじろりとユミルはエレンを見上げる。 確かにユミルは、なんてことないシンプルなTシャツにジーンズ姿でも、どことなく様になっている。 スラッとした長い足の先に真っ赤な靴が光っていて、歩くとコツコツと女らしい音が鳴る。 「ヒール…か」 「まぁ、お前には無理だろうけど」 「何でだよ」 「だってお前が女子力あげたい理由は、あいつだろ?四年の…」 「わー!わー!」 ミカサと別れて、こっそりと帰り道に駅前のデパートでパンプスを買った。 淡い紅色の、光沢のあるやつだ。 ユミルにからかわれるだろうから、デザインは少し違うものにした。 まぁ、どうせからかわれるだろうけど。 値段は………少々張った。 それでも、モノトーンでシンプルなタイプが多いエレンの服には、意外と何にでも合わせることができた。 床に広げた包装紙の上で、その赤いパンプスを履いてみる。姿見の前で一回転して、にやりと笑う。 なかなかしっくりきている、ような気がする。 肝心な時に、役には立たないんだけど。 「……あの人、背低いもんな……」 一応買ってはみたものの、しばらくは玄関で飾られているだけだった。 値段も張ったのにもったいないが。 それも、仕方ないか。 四年生のリヴァイとはゼミが同じで、知り合って一年ほどになる。入学当初からリヴァイに憧れていたエレンは先日、決死の告白の末、奇跡的にOKの返事をもらい付き合うことになった。 付き合えたものの……顔を合わせるのは授業のある平日だけだし、休みの日に二人で出かけたことなんてないし、一人暮らしの彼の家にだって行ったことない。 恋人らしいことといえば、以前より頻繁にメールするようになったこと、ゼミが終わった後に研究室で二人で居残って話すようになったこと、遅くなった日には、家まで送ってくれたこと。 まぁ、そんなところだ。 同期に話せば、鼻で笑われる内容だが、エレンにとっては大きな進歩だ。 (今日はリヴァイさん、いないんだ) つまんねー、と独り言を言って、エレンは一人校内を歩く。 四年生はこの時期、卒論の執筆に入っているためゼミの日にしか大学に顔を出さない。指導教授がいない月曜は、基本的にはリヴァイは学校にいないのだ。 と、思っていたが。 そのリヴァイと、図書館前で偶然鉢合わせした。 「リヴァイ、さん…!?」 「エレンか」 「どうしたんですか?今日、月曜ですよ?」 「ああ。学生課に用事があった。」 まずい。 エレンは今日、リヴァイに会わないと踏んで、例の赤いパンプスを履いてきてしまっていたのだ。 必要以上に近づかないように、エレンは立ち止まる。明らかにいつもより、目線が高い。 「これから、授業か?」 「はい」 「誰の授業だ」 「ナイル先生です」 「そうか。そりゃ、退屈だな」 「ひど」 はははっ。乾いた笑いしか出なかった。 旋毛までは見えないが、リヴァイが首を傾げる角度がいつもと違う。4センチのヒールは高かったのか。控えめにしたつもりなのだが。 ただでさえ、リヴァイよりも大きいというのが嫌だったが、これで更に身長差を意識させてしまうのが怖い。174センチと、160センチ?こんなでかい女、嫌だろうか。嫌に決まってる。自分が男だったら、絶対嫌だ。 それにもし、彼が背が低いことをコンプレックスとしていたら。 まずいまずい。 微妙な距離を保ちながら、足元に目線が行かないよう祈る。しかし無情にも、リヴァイの目がゆっくりと下に下りていく。そこからだんだん、上へ上へと視線が戻る。普段から目つきの悪い彼に、じろりと睨まれたような気がして肩をすくめた。 「エレン」 「…………はい」 「その靴、似合うな」 「え?」 「スタイルが良く見える」 「……」 その後に、元々良いがな、と続いて耳を疑った。 ぽかんと口を開けたままのエレンにリヴァイはおもむろに近づいて、すっと手を伸ばす。するりとわき腹に、背のわりに大きな彼の手が滑ったので、ひぃ!と変な声が出た。 「りりり、リヴァイさん」 「あ?」 「ど、ど、どこ触って」 「駄目か?俺は彼氏だろ」 「だ、だめじゃ……ないですけど……」 ぷしゅう…と赤くなりエレンは俯いた。 授業中のこの時間、辺りに人の姿はないが、いつ誰が来るともわからない。 初めての、必要のない接触にエレンはむずがゆさを感じた。 「あの、リヴァイさん」 「あ?」 「その……すみません」 「何謝ってんだ?」 「だってその…これだと、リヴァイさんとますます背が……いた!」 脛を蹴られた。手加減しているのだろうが、それでも痛い。 この人は女子にも容赦がないのか。DVだ。 「うるせぇ。余計な世話だ」 「は、はい」 「………エレン」 「はい」 「俺と会う時は、その靴で来い」 「え?」 背なんてどうでもいい。お前が綺麗な方が嬉しいに決まってるだろ。 恥ずかしげもなくそんなことを言って笑うので、 エレンは心の中でそっとユミルに感謝した。 end 進撃がアニメ化した時突発で書いた話です。 |