シミュラークルな正午 番外編〜ちょっと過去〜 (※過去/本編の一年くらい前の話) (※社会人×高校生) 授業を終えたエレンは自転車を走らせ、海外出張から1ヶ月ぶりに帰っているであろう兄の待つマンションへむかう。三日前にクローゼットから引っ張りだしたマフラーをたなびかせて駐輪場に舞い込み、早くも暮れ始めた晩秋の夕日の中、二人の住むマンションは明かりが灯りだす。 オートロックを食い気味にこじ開け階段を駆け上りガチャガチャと鍵を開けて中へ入れば、出ていった頃と変わらずぴかりと磨き上げられた革靴が並んでいた。 「兄さん!」 脱ぎ散らかしたスニーカーを慌てて揃えてリビングへ入れば、そこにはすでに部屋着に着替えた兄の姿があった。 1ヶ月ぶりの兄は少しだけ髪が伸びていた。 「おかえり!」 「ただいま」 エレンは制服のまま、大きなスーツケースの荷物を解いていたリヴァイに飛び付く。「いてぇ」と抗議の声があがるが無視して肩に頬を擦り付けた。 「元気そうだな」 「会いたかった!」 「相変わらず元気すぎだろ」 「兄さんいつもと違う匂いがする!」 「嗅ぐな馬鹿」 海のむこうから戻った兄は、潔癖な彼らしからぬ異国の香りに染まっていて物心ついた頃から寝食を供にしてきた弟はその違いに敏感に気付く。 喜ぶエレンの姿は、尻尾をぶんぶん振る大型犬そのもので、留守から帰った飼い主を出迎える犬はこんな感じだろうな、と思った。 犬を飼ったことはないけれど。 仕事とはいえ二人はこんなに長い間離れて暮らしたことはなく、一応の罪悪感から色々とご機嫌とりに買い込んできた物の存在を思い出す。 「土産があるぞ。お前が好きそうなのが……おい離せ」 そう言って離れようとする兄に、エレンは離すまいとぎゅっと抱きついた。 わがままな弟の訴えるような視線に気付く。 「………あー」 頭を撫で、そのまま耳、頬、首と手を滑らし、キスをする。 1ヶ月ぶりのそれは、触れ合うだけのものからやがて角度を変え、舌を絡め合う激しいものになる。 「んっ…」 くちゅくちゅと音を立てて貪るようにしてやれば、弟は鼻に掛かった声を出す。 「兄さん…」 それは二人の秘め事の時にだけ見せる、甘えたような声色だった。 あ、まずい。キた。 西日の差し込むまだ明るいリビングで、二人はろくに話もしないまま交わっていた。後ろから腰を掴んで掻き回すリヴァイを、毛足の長いカーペットに両手をついて白い背中を仰け反らせながらエレンは受け入れていた。まるでそれがごく当たり前の、自然の摂理であるかのように。 「あ、うっ…」 「久しぶりだな」 「ん…兄さん…」 「寂しかったろ」 「……会いたかった」 いつもは生意気な口ばかり叩く弟も、今日ばかりは終始素直である。揺さ振れば甘い声を出し、問い掛ければ正直な言葉を返す。 カーペットをぎゅっと握り、白い肌を赤らめてねだるような顔をするエレンはまだ高校生とは思えない色気があった。 「はっ…ガキが…」 「んっ…」 「…エレン」 何度か律動を繰り返し、その感覚を探り当てたリヴァイはぴたりと動きを止める。 「一人でしたろ」 「……ッ」 「しかも俺の部屋で」 1ヶ月触れていなかったにしては、エレンの中は柔らかくすんなりとリヴァイを受け入れいつも以上に快楽を貪っている。 帰ってからすぐ自室で着替えたリヴァイは、出発の時には几帳面に片付けたはずの部屋がやや乱れているのに気が付いていた。 「……ごめ、」 「別にいい。てめぇがひと月も我慢できるわけねぇだろ」 「ひあ…!」 てめぇのここが。 くくっ、と笑いぐりんとねじ込むように進めると、抑えられず高い声が上がる。 「俺のベッドで、俺にこうされるの想像して?」 「う…ぁ、あんっ」 グプグプと、エレンにわざと聴かせるように音をたてた。 「や…も、ごめ、兄さん…」 「電話でするのは嫌がったくせに」 「だ、だって…」 涙目で兄を振り返るエレン。 崩れ落ちそうな体を必死で支え、意地の悪い彼を震えながら見つめた。 「さ、寂しくなる…」 「あ?」 「会えないんじゃ、余計、寂しくなるじゃんか…」 「……いい子だ」 頬が緩むのが自分でもわかった。溶け切った顔で鳴く弟を望みどおり容赦なく高みへ追い込んだ。 その後も、やっぱり話はしないまま離れていた時間を奪い返すように弟を抱いた。 ソファの上でもう一度。 リヴァイの部屋へ連れていきもう一度。 もう嫌だ、無理限界、と言いながら若い弟は何度も兄を受け入れた。 健康的で柔軟で、何をしてもそれなりに楽しめてしまう、いやらしい体に育ってしまった弟。日頃の減らず口はどこへいったのか、媚びて甘えて許しを乞う。 (だから好きだ、クソガキが) エレンは、何度目かの絶頂の最中、苦しげに精を吐き出す兄の顔を見た。 子供の自分とは違う、牡丸出しの怖いくらいの色気。 (ああ。もう兄さんは。だから好き) end |