理性が切れる3秒前
おいおい、どういうことだよ。アレか?俺はもしかして試されてんのか?
事の発端は数時間前のLINEのやりとりだった。もうすぐ長期休暇ということで学校では夏休み前の期末テストの真っ只中。全9科目あるテストは3科目毎で行われる。本日はそれの2日目、昼で帰宅。ラスト1日だと思うと気分も晴れるもので少し復習をしたら昼寝をするつもりだった。・・・つもりだったのだが。下校中にLINEがくる。
今日午後ひま?
腐れ縁の幼馴染み。プロフィール画像にはプリクラだか加工した写真だかわからないが異常に肌が白く異常に目がでかくなった本人ではない(ような)写真。その枠からふきだしで先ほどの文章が綴られていた。いつもだったら特別することもねえし、肯定の返事をすればすぐに既読がつく。けど、こいつのことだ・・・テスト期間中にこんなこと聞いてくるってことは・・・
暇じゃねえ
そう送るとぱっと既読がつく、こいつLINE画面開きっぱなしだな。そして間髪入れずにまた文章が―
数学教えてほしい★んだけど
無視か。暇じゃないと確実に送ったはずなのにさも何もなかったかのような返事。しかも★つけるタイミングおかしいだろ。どうやったらそんな間違いすンだよ。軽く復習して寝る、そう送ろうと思ったら向こうから連続できやがった。
窓から入っとくね
相変わらず勝手な奴、そして鍵がかかってないという根拠はどこからやってくる!どうせ制服のまま来んだろうな、跨ぐ際にパンツ見えるからやめろっつったのに。部屋は散らかってなかったか、と思いながら帰路へ着いた。
『一護遅いーっ!待ちくたびれた!』
「てめえが勝手に入ってたんだろ!」
自室の扉を開けるなり開口一番にそれだった。ふざけんなと、軽く怒鳴ると視線の先は彼女の手元へ移る。・・・なんで?
「お、おい・・・それどうした?」
『・・・?あ、コレ?!一護の部屋にあったんだよ。これさどこから音出てるの?』
ぜんまい式?とクルクル回転させて調べるそれはぬいぐるみ、コンだ。もしかしてコンの奴、窓からルキアが入って来たと思って間違って声出したんじゃねえだろうな!冷や汗がダラダラと伝う、気のせいかコンも滝汗を流しているように見えた。しかしそれにしてはやけに落ち着いている名前の様子。
『それとも壊れちゃったのかな?』
「え・・・壊、れ?」
どうやら窓から入って来たと同時に床に放置されていたコンの奴を踏んじまったらしい。俺は断じてコンを床に置いた覚えはない、こいつが勝手に動いたんだ。きっと俺以外の奴が入ってくるとは思わずに歩き回ってたんだろうが迂闊だったな。
『それにしてもコレ可愛いね、どうしたの?』
「あ、いや・・・えっと、ゲ・・・ゲーセンで取ったんだよ!」
いつの間に〜と頬を膨らませコンを正面から睨み付ける。や、やめろ・・・コンの奴がいつ痺れ切らして動くかわかんねえぞ。来客がルキアではなかったこと、理不尽に踏みつけられたことできっとイラついてる筈だ。
『ねえ一護っ、コレちょうだい?』
「・・・っだ、駄目だ!」
名前の手からコンを引っ手繰り奪い返すと押入れを開けて投げ込む。頼むからそこでじっとしとけよ、コン。これから勉強会なんだ、こいつが数式理解して早々帰るとも思えないしな。ふぅ、と安堵の溜息を吐くと何やら怪訝そうな顔の彼女。
『何でそんな大事そうにしてんの?』
頭の中じゃ、男がぬいぐるみ大事にしてるなんて気持ち悪いとでも思ってるんだろうな。嗚呼まじでいい迷惑だ、コン・・・もうこの際家出してくれ。けれどやはりそう思われるのは嫌なわけで必死に取り繕う。
「あ、アレだよ!遊子の奴が前から欲しがってたんだっ」
『遊子ちゃんが?なら仕方ないね』
簡単に信じてくれた名前の鈍感さに感謝しつつ本題の勉強会を始めた。俺は容姿だけで判断してくる教師の干渉を避ける様、基本勉強はキチンとしている。その為か成績は優秀な方。それに比べ彼女は、クラス学年順位は下から数えた方が早い。毎回テストの度に教えてくれとせがまれる。
「普段からしとけばこんなことせずに済むじゃねえか」
『そう意地悪言わずにさ、ね?』
お願い、と上目づかいで言ってくる確信犯。俺がそれに弱いことを知っていて、断れないことを知っていてやりやがる。まあ、最近は虚の出現率も低くなってきてるしいざとなったらイモ山さんが虚退治してくれんだろ。そういう理由で、と頭で言い聞かせながら教えることにした。
開始から10分経過―
『・・・わかんない』
「わかんないじゃねえよ、応用きかせればいいだけだろ」
基礎は教えればできる、当たり前だ当てはめる数字が違うだけなのだから。だが少しでも基礎から外れれば全くもって駄目なのだ。もっと頭を使え。
『無理だよ〜、答え教えて』
「簡単に諦めんなよ」
無理、嫌だ、と駄々をこねだす始末。挙句の果てには菓子を出せを言い出した。
「・・・食えばはかどんのか?」
『うん、めっちゃはかどる!』
生き返ったように目を輝かせる名前。食べたい故の嘘だとわかりながらも渋々出す。
無いと言い張ればいいものを、俺もこいつには相当甘いな。菓子と言えどほとんどはチョコレート系(俺の好物)を平らげると満足したかのようにベッドへ寄りかかった。おい、勉強は・・・
『なんか満足したら眠くなってきちゃった』
「てめえふざけんなよ!やる気でるって言ったから俺の隠し持ってたチョコレートやったんだぞ」
『隠し持ってたんだ、なら今度奢ってあげるから』
隠し持っていた、というのはアレだ。あまり菓子ばかり食うと太ると言われる為いつもは遊子に取り上げられてしまう。まあ、買い直してくれるなら勘弁してやるかって・・・そういう問題じゃねえ!
「ったく・・・勉強しねえんなら帰れよ」
『え〜、だって一護の部屋なんか居心地いいし帰りたくない』
「・・・っ」
帰りたくない、そのフレーズに不覚にもドキリとしてしまった。こいつはただの幼馴染みだ、決して一緒に居たいとかもっと話していたいの意味じゃねえ!此処はオマエん家じゃねえんだよ、俺だって昼寝したいっつーのと帰るのを催促してみる。・・・が返事がない、もしかして―
「寝んの早すぎだろ」
規則正しい寝息を立てていた、テーブルとベッドの隙間に横向きで。器用な寝方するもんだなと思いつつもそのままにしとくわけにはいくまい。仕方なしにテーブルを空いてるスペースへずらすと彼女を抱き上げた。足で適当に掛布団を整えると優しくゆっくり降ろす。ベッドに足を掛けるとギシリと音がした。降ろした体勢のまま彼女を見やる。
「・・・いつの間にこんな」
綺麗になったんだ―サラサラのロングの髪はシーツに散らばっていて、寝息は薄く開けた唇から。白い首筋は痕を残せばくっきりとつきそうだ。まだ発展途上なのか少し膨らむ胸も呼吸と同時に上下に動く。見惚れる、とはまさにこのことだ。
「おい一護ぉ!おめえ、昼寝するなんっつってそのまま寝込みを襲う気だろスケベ野郎!」
「うおうっ・・・!」
びくっ、とベッドから体を離せば押入れから顔を出したコンの姿。ち、ちきしょー無駄に心拍数上がっちまったじゃねえかコンの野郎・・・鳴り止まない動悸をこいつの近寄ってくる様を見ながら落ち着かせる。机を伝い、ベッドの柵によじ登り腰に手をあてて踏ん反り返った。
「ほほう一護、おめえこんなのがタイプってこったな」
「なっ、に馬鹿なこと言ってんだ」
「見てみろ、太腿なんか白くてむっちりしてて触ったらふわっふわのスベスベなんだろうな〜」
「!!」
コンの視線の先を辿るとそこにはプリーツスカートが見事にめくりあがり彼女の足は全て剥き出しになっていた。ずっとこの状態だったってことか!思わず赤面し勢いよく名前のスカートを下ろす。も、もう少しでパンツ見えそうだった。いくら窓から飛び移る際にパンツが見えるとはいえその時は一瞬だ。それがこんな近くで直視してたらきっと脳裏から離れなかったであろう。否、既に太腿が脳裏に焼き付いているが。
「これで巨乳ならな〜、ておい!何でスカート下ろすんだよ、もっと見せろ!」
「うるせえ黙れ!オマエはすっこんでろっつったろ!」
名前の体に徐々に近づいてきたコンを鷲掴みし再び押入れにぶち込む。しかし、アレだな。これは生殺しってやつか。いつも自分が使っているベッドで彼女が寝てると思うだけでもうムラムラ所の話じゃねえよ。ただの幼馴染みと思っていた奴がこんなにも一気に女に見えるなんて。頼むから早く起きて帰ってくれ・・・ついでに極め付けは―
『ん・・・、ぁ・・・いちご』
そして冒頭に戻るのである。
理性が切れる3秒前
(ふわっふわのスベスベ・・・(ごくり))
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