I want your time
7月15日、空座町、クロサキ医院にて―
「お兄ちゃんおっめでとー」
「一兄、おめでと」
最愛の妹に招かれた誕生日会。招かれたっていっても我が家のリビングだけど。ドタドタと階段を駆け上がる汚い足音―
「父ちゃんスクリューバースデーキーッ・・・」
「てめぇは誕生日までそれやんのか!」
誕生日が学校休みなんだ、ゆっくり寝させてくれよ。なんて言葉は親父には届かない。いつもの幼稚な挨拶を受けながし顔面を床にめり込ませればノックアウトした。妹たちからは誕生日会をするから下へ降りてこいと言われ―軽く身支度をし顔を洗いに洗面所へ行く途中、甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。
「・・・でかくね?」
どどん、と効果音がつきそうなそれは巨大ホールケーキ。俺の好きなチョコレートベースで作ってある。そいつをテーブルに置くとロウソクに火をつける準備をする遊子。そこらのケーキ屋も顔負けの仕上がりは我が妹の手作りだったりする。本当、料理上手になったな。
「うちが4人家族だってこと忘れてねぇか?」
「いいのー!大きく作ってって頼まれたんだもん」
誰にだよ、と俺のそんな突っ込みも華麗に無視され部屋の電気を消された。
「一兄、火消してー」
「・・・おう」
大きく息を吸い込み、15本並べられたロウソクの火を吹き消す。15本ってのはあれだ、年の数じゃなくて俺の名前を文字ってるやつだ。だって毎年15本差してあるんだから、それしかねえだろ?全て消し終えると真っ暗になるリビング。隣でガタと椅子を引く音が聞こえた、夏梨が席を立ったのだろうか。
「はい、じゃあケーキ切るねー」
遊子の声掛けと共に明るくなる部屋。少し眩しくて眉をひそめながら目をあけると隣には夏梨ではなく別の人物が―
「?!」
『・・・えへへ』
ななな、なんでオマエが?!と思わず立ち上がりパニックに陥る一護。そう、幼馴染である彼女"名前"は毎年自分の誕生日を祝ってくれるのだが今年ばかりは用事があってどうしても無理だと言われたのだ。残念だと思いつつ来てくれて嬉しいと思ってしまっている自分がいる。そして、夏梨がいた場所にちゃっかり座っていたのだ。こいつ部屋暗くなった瞬間にすり替わりやがったな!
『・・・驚いた?』
「・・・ったりめえだろ、なんでいるんだよ」
これ遊子ちゃんと夏梨ちゃんのサプライズなんだよ?なんて。二人が計画して兄を驚かせようという魂胆だったらしい。やっすいサプライズしてくれるじゃねえか。
「お兄ちゃんプレゼントもあるからね」
遊子がそう言うとどこから持ってきたのか長い長いリボン。夏梨が端を持つと二人で協力して颯爽と巻いていく。・・・何を巻いたかって?
「ほーら、最高のプレゼント!」
『きゃあ!』
なんと二人で名前を巻き上げたのだ、首にリボン結びまでつけて。どん、と彼女の背中を押した夏梨、俺の胸へと飛び込んで来る名前。妹たちはいえーいなんて言ってハイタッチをしている。
「お兄ちゃん、ちゃーんと受け取ってね」
「一兄、いくらプレゼントでもがっついたりしたら幻滅されるからね〜」
上目遣いで見上げてくる名前。おいおい待てよ、何も言わずに見つめてくるってことは本当に受け取っていいプレゼントなんだろうな?首にリボンって可愛すぎだろと思ったのは秘密だ。
「・・・うるせーな、別にいいだろ減るもんじゃないし」
『減る!確実に私という人物が減るじゃない!』
場所は変わって、浦原商店へ向かう道中―家ではケーキを切り分けて三人分だけ冷蔵庫へ。
父親と妹双子の分らしい。残りは浦原商店へ行っておすそ分けするのだとか。だからあんなどでかいケーキ作ってたんだな。・・・で、なんで誕生日の俺がケーキ持たされてんだよ。
「んな小せえことでピーピー言うなって」
『小さくない!冗談にしても心臓に悪いから』
彼女が怒っているのは何故かというと、先ほど妹たちから「名前ちゃんをプレゼント」と言われた。それに対して俺が「おう、サンキューな」と返事をしたのだがそれがまずかったらしい。直後、ボンッと音が鳴るくらい顔が真っ赤になった彼女。夏梨から押され俺の胸に飛び込んできたときに、何も言わず見つめてきてたのは驚いて放心状態だったらしい。俺としては心の底からした返事だったんだけどな。妹たちがキャーキャーうるさかったのは致し方あるまい。
「悪かったよ、じゃあ撤回するから」
『・・・え!あ・・・いや・・・・・・撤回は、しなくても・・・』
どっちなんだよ、もじもじしている彼女を見る限り照れ隠しだったのだとわかった。たしかに付き合ってるのか付き合ってないのか微妙な間柄の俺たち。小さい頃からずっと一緒にいたもんだから周りの奴らからは恋人だと思われている。けれど・・・決して告白した覚えもなければされた覚えもない。つまるところ、友達以上恋人未満というやつなのだ。居心地がいいこの関係を壊したくないから、何もアクションを起こせずにいる俺。とっとと告白して付き合ってしまえばいいのに玉砕するイメージをしたら足がすくんでしまいいつも何も言えないのだ。そうこうしているうちに目の前には浦原商店が見えてくる。相変わらず、店の前ではさぼりながら野球をしている小僧が一人。隅のほうでは女の子がほうきで掃除をしていた。
「よぉ、浦原さんいるか?」
「あ・・・はい、呼んできます!」
雨に話しかけると掃除を中断し店へと駆けていった。ジン太が一護と名前に気づくと、顔をキラつかせながらやってくる。
「なあ、ケーキ!ケーキがあんだろ?」
「おい、その前に俺に言うことがあるだろ」
「なんだよー、おめでとうって言ってほしいのか?」
ケーキが来ることを知っていたジン太。それは何故か、考える暇もなく下駄の音が聞こえてくる。
「コラコラ、お祝いの為に呼んだんだからケーキせがんじゃダメじゃないの」
『浦原さん・・・準備ってできてますか?』
「もちろんですよ♪さあさあ、二人とも中へ」
帽子を目深にかぶる彼はこの店の店主で―詳細を聞かされていない一護は不思議に思いながらもいう通りに店内へ。玄関先には靴が5足・・・やけに多いな、テッサイさんと雨を除いて3人いるってことか?カラカラと引き戸をあけるとそこには見慣れたメンバーが揃っていた。井上に石田、茶渡である。
「黒崎くんと名前ちゃんだあ!」
「遅かったじゃないか、どこで油売ってたんだ」
ごめんね、と名前が謝りながら部屋へ入る。なんだよみんなでお祝いしてくれるってことか。と心なしか喜ぶ自分がいた。卓袱台の席についたが何故か皿が11枚も並べられている。
じゅ、じゅういちまい?!と枚数に驚きつつも今現状の人数を数えてみた。井上に石田、チャドと浦原さん子供二人とテッサイさんに名前と俺―
「・・・な、なあ浦原さん。なんか皿の枚数おかしくねえか?」
「たわけ!この私が見えんのか!」
「・・・よっと・・・よお一護、誕生日なんだってな?祝いに来てやったぜ」
先ほど自身が入ってきた玄関からルキアと恋次がやってきた。なんだなんだ、えらく盛大な誕生日会になりそうだな。なんて思っていると名前がせっせと準備を始める。ケーキを人数分に分けて、ジュースを注ぎ皆を席に着かせると彼女自身も俺の横へちょこんと座る。
「えーごほん、今日は黒崎サンのお誕生日ということでみなさんでお祝いをしましょう」
「・・・そんな改めてしてもらわなくていいぜ、浦原さん」
「何言ってるんスか、みんな貴方の為にきてくれたんスよ?」
まあ、確かにみながわざわざ俺の為に時間を割いて来てくれた。それには感謝しなきゃいけねえのはわかってる。ルキアや恋次なんかはおそらく仕事を切り上げて来てくれたに違いない。
「・・・ああ、今日はみんな・・・ありがとな・・・」
「そしたらみなさんグラスを持って・・・」
―乾杯
「誕生日おめでとう〜!」とグラスを交わす。ガヤガヤと騒ぎ出す部屋、ジン太なんかは雨の分のケーキを横取りしようとしていて―それに気づいたテッサイがジン太へチョップをくらわし、その一部始終を見ていた石田がやれやれと呆れだす。織姫はケーキを頬張り口元にカスをつけ、茶渡はジュースではなくお茶をすすっていた。ルキアは「こんな上手い菓子は尸魂界の甘味屋にはないぞ」と感動してるし、恋次は「これが餡子だったらなー」なんてぼやいている。俺は俺で、妹が作ってくれたケーキを味わいながら食べる、うんやっぱり美味い。
名前はそんな俺のケーキを狙っているのか皿をじっと見つめてきた・・・やらねえぞ?
「はいはいはーい、そしたらここらでプレゼントターイム!」
浦原さんが仕切るんだな、とか思っているとテッサイさんが何やら布を被せた大きな荷物を抱えて持ってきた。それをどしん、と床に置くと雨が布をはぎ取る。
「じゃーん!アタシらからはこのミニチュア穿界門をプレゼントっス」
「せ、穿界門?!いらねえだろ!どうせ地獄蝶持ってねえんだし、また危ない思いして尸魂界行かなきゃなんねえのかよ。その前に尸魂界に行く用事なんてねえけどな」
「アタシが一晩かけて作ったんスよ?無理やりにでも用事を作って尸魂界に行くべきスね」
はらり、を顔を表したミニチュア穿界門。ミニチュアとはいえ、バカでかい。俺の部屋にこれ置けってのか?冗談じゃねえ。
「次々〜!黒崎くん、私からはこれだよ!」
織姫がミニチュア穿界門を押しのけ、一護の目の前まで来ると両手で何かを差し出す。彼女の手にはお守り・・・お守りがのっていた。しかし、そのお守り・・・・・・普通ではない。
「おい、これどうしたんだよ」
「えへへ、さっき路地裏で占い師さんがいたんだけど。その人から5万円で買ったの、すごい開運効果あるんだって」
「開運効果?絶対嘘だろ、オマエ騙されてるよ!思いっきりドクロマーク描いてんじゃねーか!し、しかも5万円って・・・」
如何にも毒々しいそれはドクロマークが描かれNOROIと刻まれてある。これに開運効果があると鵜呑みにできるのが井上らしいというか何というか・・・するとどこからともなく石田が現れ割り込んできた。
「黒崎!そんな得体のしれない物よりも確実なプレゼントを受け取れ。僕のお手製だ、せいぜい喜ぶんだな」
「偉く上から目線じゃねえかよ・・・ってなんだこれ!?(今さらっと井上のことディスったよな?)」
「なんだこれ、はないだろ。僕の手作りマスクだちゃんと滅却師のロゴ入りだぞ」
「マスクって・・・世の状況匂わせてんじゃねえよ。そして滅却師のロゴは余計だ」
「今風でいいだろ」と何故か自慢げに投げてきたのはマスクであった。でかでかと滅却師のマークが刺繍してある・・・そういやあいつ手芸部だったな。まあ、デザインは別として受け取れないこともないからとりあえずもらっておく。すると突然にゅっと伸びてきた太い腕。
「・・・ム」
「ちゃ、チャド・・・って!いや、”ム”じゃねえから!これってじいちゃんから貰ったやつじゃねえのかよ?!」
「問題ない、アブウェロから貰ったものに酷似しているがただのペンダントだ」
「そ・・・そうかよ」と一応受け取るも・・・いや俺ペンダントとかつけねえしな、と考える。―ふと、視界にごそごそと動くルキアの姿が・・・何してんだアイツ。キュポッと音がするとササササと腕を動かしている?
「・・・おい、ルキア・・・・・・オマエ何して・・・っ」
「どうだ一護!私の傑作チャッピーだ!心して受け取るがいい!」
「いや、いらねえよ。しかもあれだろオマエ・・・プレゼントなんて用意してなくて急いで準備したろ。にしてもやっぱり画才ねぇよなほんt・・・っ」
いたっと思ったときにはすでに俺の頭にはスケッチブックが刺さっていて・・・ああ、こいつ画才ないって言った瞬間投げつけやがった。そんなんで怒るぐらいならもうちょっと絵の勉強しろっての。
「・・・おい大丈夫かよ、頭から血ィ吹き出してんぞ・・・」
「・・・ああ、オマエの幼馴染のせいでな」
タオル片手に心配そうにやってきた恋次。ほらよ、と手に渡されたのは何かの・・・チケット?そのチケットには瀞霊廷南の外れにある甘味屋と書いてあった。
「それよ、この前朽木隊長に貰ったんだ。でも行く機会なさそうだし・・・やるぜ」
「・・・いや、やるぜって・・・。結局尸魂界でしか使えないじゃねえか」
なんでこう、みんなプレゼントのチョイスがおかしいんだよ。普通の・・・普通のプレゼントでいいってのに・・・いや、貰えるだけありがたいのか?俺は贅沢なのだろうかと考えてしまう。
「ですから黒崎サン!!このミニチュア穿界門の出番じゃないですか!これで尸魂界まで行き、甘味屋でチケットを使えば・・・っ」
「だぁかぁらあ!地獄蝶がいなきゃ拘留が追いかけてきてあぶねえだろ・・・ってさっきと同じ話させんな!」
再び出てきた浦原さんに目つぶしを食らわすとその場に倒れてのたうち回った。ったくツッコミすぎて疲れてきたぜ、がっくりと肩を落とすと目が合うのは名前。
『一護・・・・・・大変そうだね』
「まったくだよ、でもいつものことだろ?」
『?』
騒がしい連中、有難迷惑な奴もいる―でも・・・そんなこいつらが俺のためにわざわざ時間を割いて祝ってくれてるんだ。どんな祝い方だろうと、やっぱり嬉しいもんだよ。わあわあと煩い奴らを見ながら言うと隣からクスクスと笑い声。
「・・・俺変なこと言ったか?」
『・・・ううん、違うよ・・・フフ、一護はやっぱり優しいなって』
「なんだよ・・・フツウ、だろ?」
誕生日パーティーは夕方まで続き、そろそろお開きの時間になった。みなそれぞれ家に帰っていき、ルキアは何故か恋次を背負っている。顔を真っ赤にさせているあたり、きっと酒を飲みすぎたんだろう―手伝おうかと思ったがテッサイさんが近寄り補助をしだしたのでやめておいた。
「・・・そーいや、オマエからはプレゼント貰ってねえな」
『・・・え?!・・・あ、あのね私は・・・特に思いつかなくて―』
「思いつかなくて・・・・・・なんだよ」
帰り道、二人きり―別に期待もしてないけど、名前からもらった記憶がなくなんとなく聞いてみた。そしたら少しどもりながら困ったようにこちらをみる。
『何がいいか本当にわかんなくて・・・い、一護が欲しい物を聞いてから渡そうと思ったの』
「・・・」
俺が・・・俺が欲しいものだと?そんな困ったようにうるうるとした上目遣いで見られたら俺の欲しいもんは必然的に決まってくるわけで・・・
「オマエが・・・よければ・・・・・・」
『・・・私?』
「・・・・・・これからも、オマエと一緒に過ごす時間が欲しい」
本当のこというと“オマエ”が欲しい―と言いたいのだけれど。付き合ってもない奴からそんなこと言われる筋合いはないわけで―ましてや、その返事だって断られるかもしれない。
これからもオマエと一緒に過ごせるならそれに越したことはない。恥かしさから顔を背けていたが彼女の様子が気になりちらりと盗み見る・・・
『これからも一護と一緒に過ごすなんて・・・当たり前じゃない』
「・・・っへ?」
『自分だけ一緒に過ごしたいなんて・・・思わないでよね』
『・・・・・・私だって・・・・・・、一緒に居た、いし・・・』と徐々に顔を赤くさせていく彼女がやっぱり愛おしかった。手をつなぎたい、抱きしめたい気持ちをぐっと堪える。
「なんだよ・・・それじゃ、プレゼントにならねえな」
『・・・・・・今日だけなら・・・』
「?」
俺がオマエと過ごす時間が欲しくて、でも名前も俺と一緒に過ごしたくて・・・WIN-WINな関係で終わっても良かったけど、名前は提案してくる。震える手で俺の服の裾を掴むとコチラとは反対方向を向きこう言った。
『・・・今日の残り少しの時間・・・なら、私の・・・時間を・・・・・・あげ、る』
途切れ途切れ・・・恥かしさを我慢する姿は俺のS心をくすぐって―どうしようもなく可愛くて思わず意地悪をしてしまう。
「それじゃあ、あと少しだけ・・・オマエを独り占めできるってことだな?」
『・・・そ、そういうんじゃなくてっ・・・』
「最高の誕生日じゃねえか」
顔を近づけると顔を真っ赤にさせた顔が更に赤らむ、ゆでだこみたいだ。それすらも可愛いと思う俺はもう末期だろうか・・・恥ずかしがる名前の手を取り自宅へ連れ帰る。
「ただいまー」
「お、息子よ・・・誕生日会は楽しん・・・っおいおいおいおい!」
『・・・またお邪魔しますね・・・』
親父が一番に顔をのぞかせたがやはり名前の存在に驚く。続けて、遊子、夏梨と顔をのぞかせるとまた騒がしい場所に様変わりしてしまった。俺は名前と二人になりたいんだよ―
「わりぃけど我慢できねえんだ。二階に直行するぜ」
『・・・が、我慢って何のはなし・・・っ』
繋いだままの手を引っ張りそのまま階段を上る。残り短い時間なんだ、親父や妹たちにからかわれてタイムロスするのはごめんだぜ。ガヤガヤとうるさい外野を無視して自室へ招き入れた。
「い、一兄・・・とうとう強行突破に入ったね」
「・・・っ夏梨ちゃん!強行突破ってなんのこと?!」
「そそそそうだぞ、夏梨!いい一護はどどどどど童貞中の童貞!そんな簡単に名前ちゃんをおおお襲えるわけががが・・・っ」
「なんで髭が動揺してんだよ!!」
ドアを閉めていても夏梨の怒鳴り声が聞こえるが・・・聞かなかったことにする。取り合えずベッドに彼女を座らせると俺はコンの存在を確認。襖を覗いてみたり引き出しの中を探したりするがどうやら奴は不在のようだ、好都合。
『・・・一護?何か・・・するの?』
「・・・・・・ああ、その何かだぜ」
彼女の横へ座り、位置を確認する。位置ってのはあれだ、こう・・・座り心地とかが大丈夫かっていう確認なわけで・・・決して、決してこのまま押し倒して大丈夫かとかそんなんじゃっ・・・
「・・・ったく埃っぽいったらありゃしないぜ〜・・・って名前さん?!」
良からぬことを考えた罰なのか、不在だったはずのコンが登場する。確認したはずの彼が出てきてしまい彼女へ伸ばしかけていた手は宙を舞う。バランスを崩した俺は思わずベッドへうつ伏せに倒れてしまった。思わぬ来客に驚きを隠せないコンは何か言いかけてたのも忘れ名前に飛びつく。
『わわ、コンじゃない!』
「名前さ〜ん!ああ・・・この癒し・・・ほんと幸せだ〜」
「オマエ・・・・・・今までどこにいやがった・・・」
心底恨めしそうにコンをにらみつける一護、そりゃあそうだ・・・コンがいたらうるさいし何より二人きりが邪魔される。そんなことつゆ知らずの彼は一護の態勢を見るなり驚きの言葉を放った。
「俺がどこにいようがおめーにゃ関係ないな!っというかそれよりも、いまアンタ名前さんを襲おうとしてなかったか?」
『・・・え!う、嘘でしょ!』
「・・・なっ、ばか・・・・・・違えよ!!!」
彼女のひいていた熱もコンの発言により再びボンっと赤くなる。こいついきなり何い言いやがるんだ・・・いや、まあ・・・少しはそんなことも考えてたけど・・・って違う!
「適当言ってんじゃねえよ!オオオマエ今出てきたじゃねえか!?」
「ははーん?さては図星で焦ってんな?名前さん知ってます?こいつ毎晩名前さんオカズにシコっt・・・」
そう言い終える前に彼女から無理矢理コンを剥がすと鷲掴みし襖へ投げ入れる。「ほげぇ」と悲鳴が聞こえたがそれすら無視し襖を閉めると出てこれないようにほうきでつっかえを作った。まあ、あれだけ乱暴に投げ入れたんだ・・・そう出てこれまい。しかしなんだ・・・黙っている彼女が怖い。こんなにも彼女の顔を見るのが怖いのは初めてである。おそる、おそる振り返ると―
『・・・さっきの嘘だよね?』
「・・・・・・っさ、さっきの・・・?」
ごくり、と固唾を飲みこむ。ああ・・・きっとその音さえも彼女には聞こえていただろう。それほどまでに部屋は静けさを取り戻せていた。さっきのコンの騒ぎが嘘のようだ。
「・・・さっきのっていうと・・・・・・コンが言ってた・・・やつ?」
『それ以外に何があるってのよ』
名前が拳を握るのがわかった。あ、やばい・・・これって証拠もなしに決めつけられるやつじゃ・・・部屋にも連れ込んでるし?二人きりになりたいとか言っちゃってるし?挙句の果てに我慢できねえとまで言っちゃったし?これってもはや逃げ道は―
「いや・・・あの、これには弁解が必要でして・・・っ」
『・・・こんの変態!』
「ぶふっ!」
バチン―と痛々しい音が黒崎家に響き渡った。渾身の力を込めて殴られ再びベッドへダイブする一護。『そ、そういうのって・・・順番が違うじゃない!』と顔を真っ赤にさせながら怒鳴ると扉を蹴り開けすごい勢いで帰って行った名前。嗚呼・・・嗚呼・・・やってしまった・・・こりゃあ、また話聞いてもらうまで時間がかかるな・・・しかし、彼女の何気なく言い放ったワード"順番がチガウ"―恐らく、そういう類の行為をするにはオツキアイをきちんとしてからということだろう。そんな間柄になってもよいと遠回しに言われたことに理解し告白しようと心に決めた一護であった。
I want your time
(順番さえ守りゃあいいんだな?)
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