熱中症
『暑い・・・』
「そうか?もう夏過ぎたけどな」
そうじゃない、そうじゃないの一護。付き合って一年とちょっと経つ私たち。
『九月は充分夏だよ』
「いや・・・秋だろ」
暑い?そんなの嘘に決まってるじゃない。今日は一護の部屋でまったりデートする予定。デートなんてガラじゃねえから家で、という彼の希望で。
『夏よ夏!!ああ、暑い!!』
「うっせえな・・・、ならクーラー入れりゃいいだろ」
ばか、違うよ。何でわかってくれないの。少し不満ではあるが、一緒に居てくれることには感謝する。最近、虚退治で忙しいもんね。
『クーラーはいいわ』
「そ、そうか?ほら、うちわやるから自分で仰げよ」
投げ渡されるうちわ、いやいらないんだけど。だって暑くないしちょうどいい室温だもの。健康管理には結構うるさい一護、部屋はいつだって清潔で居心地がいい。
『おらあ!』
「うお・・・ッ、何すんだよ!」
ベッドに座っていた位置から彼にむかってダイブ。・・・じゃなくて後ろから首を絞める。あ、殺人犯になりたくはないから殺さないよ。
『おらおら、暑いだろー!!』
「だ・・・ッ、だから何してーんだよてめーは!」
彼の背中と私の腹、または胸がぴったりとくっついて密着する。すると、ぴたりと固まった一護。・・・あれ?もしかしてもう私の意図は察してくれた?
「・・・何だよ、誘ってんなら早くそう言えっての」
『え』
首にかけた腕をやんわりとどけてそう言った。誘う?何に?にやりと笑う顔はもしかして・・・
「だってほら、胸押し付けてんじゃ・・・ッ」
『違うわばかッ!!』
ばちん、と頭を叩けばいい音がなる。斜めに傾いた顔からは少し寂しそうな表情。発情してんじゃないよ、変態が。
『何でわかってくれないの』
「いや、わからねえだろ」
胸は押し付けないように(奴が変な気を起こすから)後ろから抱き着く。それでもわけわからんとする顔。ねえ、早く暑くなって。体温あげて。
『こうしてたら暑くない?』
「別に、つーかマジで何してえんだよ」
読んでた雑誌はとうの昔に放り投げて。飲んでたジュースのコップからはカランと氷が溶ける音。どうやったら彼の体温をあげられるか。
『じゃあこっちきて』
「おわッ!引っ張るなって!」
ベッドの布団に一護を無理矢理引っ張って一緒に座らせる。掛布団を持ち整えていると腰に忍び寄る手。
「やっぱり、してえんじゃねえか。ほら今日は俺が下にな・・・ッ」
『だから違うって言ってんでしょ!!』
いやらしい手つきで私の肌を物色する手を叩く。何こいつ、いつから万年発情期になったの。手にした掛布団を大きく持ち上げると彼を丸ごと包んだ。
「のわ・・・ッ!おい!何して・・・ッ」
『ふふふ、これで君も暑くなる!』
敷布団、一護、掛布団、私、の順で覆い被れば嫌でも暑くなるだろう。這い出ようともがく彼を必死に覆い尽くす私、変な図なのはわかってる。私が求めてるものはあなたに暑くなってもらうこと。
「だああ!いい加減にしろよ!」
『うわ・・・ッ』
力で適わないのは百も承知。思いきり布団を押しのけると私まで同時に吹き飛んだ。ゴロンと転がる体、痛い。
「あ、悪ぃ」
『痛てて』
もう、無理か。行動で示すのは。そう諦めて正座する、彼のオーラのせいでもあるが。だって口で言うの恥ずかしいじゃない。
「で、何がしたかったんだよ」
『・・・暑くなって欲しかった』
「は?」
暑くなって欲しかった。暑くなって頭がくらくらしてほしかった。そう言えば、「お前頭大丈夫か」なんて本気で心配してくる。
『頭くらくらするってどんな症状だと思う?』
「どんな症状って・・・」
『運動会とか!海行った時とか!なるじゃない!!』
必死に彼からあのワードを出させたい。言ってもらうから意味があるの。ふーむ、と考える彼から出た言葉。
「・・・熱中症、とか?」
『当たり!』
思わず叫んだ、やっと言ってもらえた。むふふとにやけていると怪しげな視線。ああ、でもまだだよ。まだ完璧じゃない。
『それをゆっくり言ってみて』
「は?なんでだよ」
『何ででも!』
意味がわからなくても、嫌でも付き合ってくれる一護。しばらく考えると口を開く。その口をじっとみる私。
「熱中症」
『もっとゆっくり』
「ねっちゅうしょう」
『もっともっとゆっくり』
段々と近づいてきた。もうにやけがとまらない。もっとゆっくり、もっともーっとゆっくり言って!
「ねっちゅうしよう」
『・・・ッ』
「ねっ、ちゅう、しよう」
あれ、一護の表情が段々にやけてきた。嬉しくて、うふふと喜んでいた束の間に何その顔。ぐい、と迫られれば悪い顔した彼が再度口を開く。
「俺にキスの催促させたかったんだろ?」
『!』
「始めから気づいてたんだよ、ばーか」
顎を掴まれて固定されると彼の瞳がぶつかる。いやだな、恥ずかしい。最初から気づいてたなんて。拒否するように手で押し返す。
『違う、もん。ただしたかったワケじゃない』
「じゃあなんだよ」
恥ずかしさで目に涙がたまる。それが頬を伝う前に一護の指ですくいとられた。泣きたくない、これじゃ負けたみたいじゃない。
『一護が言うから意味があるの』
「・・・」
『一護に言ってほしかったの』
すると突然後頭部に手をまわされる。気づいた時には目の前に一護の睫毛、眉間の皺。ああ、やっぱりもうキスされてるんだ。一護のキスは気持ちが良い。
「馬鹿だなオマエ」
『だって・・・』
「お前が言うから可愛いんだろ?」
言うや否や再度口を塞がれる。照れる間もなく深い口づけ、熱いキスは唇が溶けてしまいそう。後頭部と腰に添えられた手は段々と引き寄せる力が強くなる。
「つーか、ンなこと言わなくてもするけどな」
『・・・ばか』
恥ずかしくて顔を下げ一護の胸に預ける。顔一杯に集中した熱は中々ひいてくれない。頭上ではくすくす笑う彼の喉。笑われてる、やっぱり一護は私の何枚も上手。
「顔上げろって」
『イヤ』
「キスできねえだろ」
『しない!』
悔しい、悔しい。私はいつも一護に勝てない。悔しさと恥ずかしさで彼の服をぎゅっと掴む。
「俺が熱中症って言ってんのに?」
『!』
「引っかかった」
その言葉に思わず顔を上げるとしてやったりな一護の顔。顎を掴まれれば逃げ道はない、また口が塞がれる。短めなそれはリップ音をたてて離れた。また深いものをされると思い込んでいた私は呆気にとられる。
「なんだよ、もう終わりってか?」
『ち・・・ッ、違う!そんなこと思ってない!』
きっと私の顔は真っ赤だろう。普段はそんな笑わない癖にこんな時ばっかり最高の笑顔で笑う。かっこいいんだよ、ばか。すると服の中に入ってきた手。
『・・・ッ、え!ちょっ・・・!』
「はい、じゃあキスの続きしまーす」
ゴロンと横倒しにして馬乗りになる一護。ああ、最後はやっぱりこの展開ね。首に顔を埋めてくると同時に瞳を閉じた。
熱中症
(毎日お前に言わせたいぐらいだ)
(
←
)
- ナノ -