(隆彦とシルビア)


がやがやと賑わいをみせる昼休みの廊下、水色かかった銀色の流れ星によってそこの時間は一瞬だけ止められた。


「流れ星ちゃん、君だったんだ」


それは屋上に向かって嗚咽しながら走った、隣のクラスの女子生徒だった。小野シルビア、彼女はフランスと日本のハーフらしく、3ヶ月前に転校してしたばかりで一時話題の人物だったのを覚えている。ほとぼりが覚めた今でも、目立つその容姿は廊下ですれ違う他クラスの生徒に認識されるほどだった。

そんな彼女のことを、隆彦はよく知っていた。彼女に想いを寄せる友人が側にいたから、嫌でも彼女の情報が耳に入ってきていた。彼女は同じクラスの結城と特に仲がいいらしいとか、出雲のことを嫌ってる(ような様子がたびたび目撃されてるらしい)とか。そのせいか、隆彦は廊下をかけていったシルビアを見たとき、なんだか放っておけないような気がして、野次馬を押し退けて屋上まで来たわけだ。


「…あぁ、あんたは確か、あいつの友達の」
「早川。早川隆彦。その節はごめんな、二人きりになるようにして」
「…いいよ、そんなこと。もう終わったんだから」


彼女に告白したい、そう言ってきた友人の手伝いをして、二人きりになれる状況を作ったのが隆彦だった。彼もまたシルビアに認識されていたようだ。

少し強めな口調は、いつしか見た彼女とは少し違う気がする。隆彦はしばらく彼女の様子を観察すると、なにかに気づいたらしくポケットからハンカチを出してそっと差し出した。


「なにこれ」
「見ての通りハンカチだよ」
「……」


膝を抱えたままゆっくり振り返った彼女の目は赤く腫れていた。水晶のような瞳に見惚れそうになったが、彼女が男嫌いなのを思い出してハンカチを渡すなりすぐに離れる。


「…ありがと」


鼻を啜る音がしてから、ハンカチは隆彦の手に返された。随分湿ったそれを見つめていると、シルビアが口を開いた。


「好きな人にフラれた」


大好きな人だった


小さく呟かれたそれを隆彦は聞き逃さなかった。


「その人にはもう大切な人がいたの。わたしはそれを知っててもなお、その人が好きだった。笑顔が自分に向けられると嬉しくて、側にいると楽しくて。やっと好きになれた、やっと自分を受け入れてくれる人が、見つかったの」

でも無理だったんだよ

「もしかしたらって、どこかで期待してたんだ多分。だからフラれてこんなに悲しいんだ、辛いんだよ。」
「…それは違うんじゃない」
「…は?」


何言ってるの、という顔で振り返った彼女の頬には、涙が流れていた。


「期待してたからすごく悲しいんじゃない、辛いんじゃない。
悲しい分だけ、辛い分だけ、シルビアはその人が好きだったってことなんだよ」


俺だって、彼女の隣にはやっぱりあいつしかいないんだって分かった時、想ってた分悔しかったし悲しかったんだ


「そんなうずくまってないで、ほら」


隆彦はシルビアの側に座ると、彼女に背を向けるように座った。


「男嫌いなんだろ、普通に抱きつくのはアレだと思うし…背中なら、貸してやれるから」


だから思いっきり泣けよ


自分でもあまり関わりがない彼女にこんなに関わるなんて、と思っていた。ただ、どこかで自分と重ねていたのかもしれない。
似たようなところがある、それはシルビアも感じていた。


「…背中、借りるよ、」


そっと背中に重みがかかると、彼女は泣きはじめた。組んでいた手をほどき、片方を後ろへ差し出してみれば細くやや冷たい手が隆彦の手を包む。その手が暖かくなるまで、隆彦はシルビアの側にいた。


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少しだけ背中を貸して

130211 思徒




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