ラメントーソ | ナノ

宵待月 2




「よっ望! 元気?」

私の問いかけに望は、うんと頷く。でもそれは嘘なのだと、直ぐに見破ることができた。

「お前はホントに、嘘をつくのが下手だなあ」

そう云って頭を撫でると、望は子犬のように項垂れた。
どうしたんだ、と問うと、今日授業参観があったんだ。と、ポツリと呟いた。
授業参観か。望のことだ、周りの視線を気にしたのだろう。父と母が私たち二人を比べることにも望は悲しそうな表情をする子だ。

「イジメられたのか」

「ううん・・・・・・」


望は詞を濁した。
望は昔から、自分の意見をあまり述べることが好きではなかった。本人曰く、押しつけがましい気がして・・・・・・。だそうだ。
本当に、私とは正反対の弟だと思う。でも、そうさせたのは私にも一理ある。その罪滅ぼしかは分からないが、私は弟──望を守ることを義務だと感じていた。

「ねぇ、お姉ちゃん。どうして親は勉強ばかりを評価するの?」

普通の子のありきたりな質問。でも望の場合、自分に対するものではなく、他人に対してなのだ。

「そりゃあ、子どもの出来が親の評価になっているからじゃないかあ? その点勉強は、統一化されたもので世間からの評価を受けやすいんだろう」

「でも、学生の間だけでしょう? 働いたら勉強よりも、人間関係とかが大事で、いくら個人を評価しても、結局社会は関係に生きることを強いるよね?」

まあ、な。個人がどうこうと云っても、所詮私たちは上から値踏みされる側の子どもだ。
望は、あのねお姉ちゃん。と私の袖を引っ張った。

「走田くんはね、クラスでいっちばん走るのが速いんだ。それに、走り方もキレイで、見ているだけでこっちもビューンって軽やかに走れそうな気がするんだ」

望はボソボソと云った。他人の視線を気にしている分、他人のことをよく見ていると思う。

「早稲屋くんは忘れん坊だけど、虫とか植物についての知識は凄いんだ。この前なんか、先生も知らなかったことを教えてくれたの。それでね、鳥井さんは縄跳びがとっても上手なんだ」

望は同級生の特技や性格を、嬉々と話してくれた。望が先生になったら、通信簿の個人欄はいつも一杯になるだろう、と私は聞きながら思った。

「皆凄いんだ。僕なんか、勉強しか出来ないけれど・・・・・・」
「そんなことないさ」

望は、えっ、と顔が上げる。勉強ができることも私は一種の才だと思うのだが、どうやら望はそれを好しとはしないらしい。恐らく、周りが勉強勉強とウルサイからだろう。

「望は、他人を見る力がある。それに自分自身のコントロールも上手いよ。私なんか、直ぐに手が出ちゃうからさ」

望の頭を撫でると、えへへと嬉しそうに笑った。こういうとき、望は年相応に見える。ごめんな、無理ばかりさせて。

それから望と沢山お喋りをして、数少ない娯楽品であるテレビゲームをした。けれども楽しい時間はいつもあっという間で、気づくと望は眠たそうに目蓋を重くしていた。
未だ遊びたがる望を無理矢理ベッドに寝かせ、暫くゲームの感想を互いに述べ合っていると、望はいつの間にか規則正しい寝息をたてていた。私は望の前髪をかき上げ、

「おやすみ。また明日」

と、呟いた。
扉を見ながら、明日アイツに会わなくちゃいけないんだ、と声に出さずひっそりと胸で唱えた。





And that all?
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