ラメントーソ | ナノ

十三夜 2



コン──。

お姉ちゃんだ。
僕は、足を弾ませ自室の窓をカララと開ける。
暗闇に輝く金色と、ニヤリと不敵に笑う姿が印象的な僕の姉。
お姉ちゃんは、お邪魔するよ、と靴を脱いで部屋に上がった。

「元気?」

「もっちろん!」

元気よく答えた僕の頭を、お姉ちゃんは、そうか、と呟いてくしゃくしゃと撫でる。僕は、嬉しくてエヘヘと笑った。
日中は、周りの目を気にして常にピリピリしていても、夜はこうやってお姉ちゃんが会いに来てくれるから明日も頑張れる。

本当は、ずっとお姉ちゃんと居たいのだけれども、お母さんが変になっちゃうから今はこの関係で我慢。お姉ちゃんに会えるだけで、結構満足しているから。

「あれ、お姉ちゃんまた喧嘩したの?」

お姉ちゃんは、気まずそうに笑った。でもこの様子からして勝ったのだろう。優しくて強いお姉ちゃん。僕の自慢のお姉ちゃんだ。
周りは、あんな姉を持って大変ね、と僕を哀れむが、逆に本当のお姉ちゃんを知らない周りを、僕は可哀想に思う。

お姉ちゃんは、塾で帰宅が遅くなる僕の時間に合わせて界隈をブラブラしていることを知っている。それに、お父さんの云いつけを守ってちゃんと学校に行っているし、テストだっていい点を取っている。
ただ、態度でいつも誤解されちゃうから、お姉ちゃんにとって世の中は生きにくいかもしれない。

僕は色々あっても我慢できるし、お姉ちゃんに会えれば嫌なことはスッキリする。
お姉ちゃんも、僕に会うことでスッキリするよ、なんて云うけれど、なんだか僕のスッキリとは違う気がするんだ。
僕はお姉ちゃんを支えられるほど、出来てはいない。だから、他力本願になっちゃうけど、いつか誰かがお姉ちゃんを支えられたらいいな、といつも願っている。

「お姉ちゃん、僕、明日塾お休みなんだ。だから、明日はいっぱい居られるね」

「お、そうかそうか。じゃあ、明日は早く来なくちゃあなぁ」

「約束だよ!」

だって明日は授業参観があるんだ、とは続けなかった。お姉ちゃんは僕が授業参観が苦手だと知っているし、今はあまり心配をかけたくない。

その時、部屋の扉がコンコンと叩かれた。お母さんが扉の向こうで、もう寝なさい、と声をかけてきた。僕は、はーい、と返事してお姉ちゃんを見つめる。

「それじゃ、お姉ちゃんはもう行くな。おやすみ望」

「うん、おやすみ・・・・・・」

楽しい時間は、いつもあっという間に過ぎていく。あぁ、お姉ちゃんはもう帰ってしまう。しがみつきたい衝動を、いつも抑えながら僕はお姉ちゃんを窓から見送る。
明日はいっぱい居られるじゃないか、と自身を納得させて、お姉ちゃんの姿が見えなくなるまで見つめた。

一人になった部屋には、お姉ちゃんの残香が微かに漂っている。部屋の灯りを消し、布団に潜りこんで目蓋を閉じた。

まるで夜空に浮かぶ月のように、暗い世界にお姉ちゃんの姿が浮かぶ。僕は胸がチクチクするのを感じながら、気づかないふりをして今日も意識を沈めた。




And that all?
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