抱き締めたいのに/おまけ
「また一人で任務?」
「うん」
「気をつけてね」
「うん」
ボクの詞に彼女は素直に返事をする。昔と比べ、随分まるくなったと思う。だけど相変わらず"みんな"と一緒なのは嫌らしい。そういう性質なので、いつも任務は一人で行っていた。ボクは、そんな彼女が不安で不安でしかたない。一人での任務は誰も助けてくれないし、そのくせとても危険な任務が多い(元々忍の任務は危険なものばかりだが)。
けれどもこうやって、彼女と夕陽を見ながら手を繋いでいると、そんな思いはどこかへ行ってしまう。その代わり、今確かに彼女とここにいる、という現実がボクの心を満たしてくれる。
「寂しくない?」
「全然」
きっぱりと云い放つ彼女は、やっぱりかっこいいと思う。夕陽を見つめる真直ぐな視線。ぴんと張った背筋。大地をしっかりと踏みしめた足──何年経っても彼女はかっこいい。
「そう云うと思ったよ」
「うん。私には帰るところがあるから、別に寂しくない」
そう云って彼女は珍しくボクに振り向いた。彼女は面をつけているので、生憎表情は分からない。無機質な面は、真直ぐボクを見つめている。物寂しい右手で、そっと面の頬を包み込む。夕陽が包み込むように優しく優しく。
「行ってらっしゃい」
「うん」
ボクは彼女を抱き締める代わり、左手いっぱいに彼女の右手を抱き締めた。それは昔から変わらないボクなりの伝え方。左手があの比のように熱いのは、彼女とボクと夕陽のせいだ。左手に直接感じる柔らかい彼女の肌と、互いに強く握りあった指が、夕陽と交じり合って一つになった。
End that all.
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