プリン消失事件


相互記念:候さまへ/TOA・ALL(無変換)

「あ、あれ?」

 かちゃり、と冷却用の譜業装置を開いたマイは、中に目的のものがないことに声を上げた。

「どうした、マイ」

 それに気づいたルークが声をかける。

「あ、え、な、何でもないよ」
「そんな声を上げておいて、何でもなくはないだろ?」

 言ってみろ、と促されて数瞬躊躇ったマイは、ややあってから口を開いた。





「プリン?」
「ああ、陶器の器に入ったやつらしいんだけど……」

 知らねえか?
 最初にそう問われたのはティアは、マイに視線を向ける。

「マイ、それはどんな器なの?」
「これくらいの、小さな白い器なんだけど……」
「そう。……小さな白い器?」

 ふと、何かを思い出したような声をティアは上げた。

「ガイがそんな器を持っていた気がしたわ」
「ガイが? よし。行こうぜ、マイ!」
「え、わっ!」

 ぐい、とマイの腕を引いたルークが走り出す。そのマイのペースを無視した速度に、けれどティアの制止の声は届かなかった。





「ガイ、それ食べるな! 待った!」
「ん?」

 白い器にスプーンを入れようとしていたガイは、ルークの声に振り返った。と、その途端にルークの突撃を食らう。手にした器と、中身はなんとか無事だった。

「だ、大丈夫?」
「な、なんとか……」

 マイの問いに、苦笑しながら答えるガイ。

「ガイ、俺はガイを見損なった」
「な、何だルーク、急に」
「しらばっくれるな! マイのプリンを横取りして食べようとしてるなんて───」
「ルーク、ルーク」

 ちょんちょん、とマイがルークの服を引く。それに振り返ったルークは、マイが指差す方を見て首を傾げた。

「あれ、プリンじゃない。器は似てるけど」

 器から上がる湯気は、中身が熱いことを示していて。

「ガイ、何を食べようとしてたんだ?」
「茶碗蒸しだよ。ホド料理の」
「…………」
「ルーク」
「う……。か、勘違いして悪かった」

 マイに促されたルークは、ペこりと頭を下げた。それを見たガイは特に気にしていない、と微笑んでみせる。

「それより、マイのプリンがどうしたって?」
「冷却用の譜業装置の中に入れておいたら、いつの間にかなくなってて……」
「うーん、勘違いするってことは、器が似てたんだろう? 白い陶器の器……。まてよ?」

 そういえば、とガイがつぶやくのに、ルークとマイは視線を向けた。

「旦那がそんなの持ってた気がするな」
「ジェイドが!? サンキュー、ガイ!」
「あ、でもアニスも同じような器を持ってたから、もしかしたら―――」
「行こうぜ、マイ!」

 ガイの言葉を聞かないままルークがマイの腕を引いて駆け出す。

「違うかも……って、聞いてないか」

 だんだんと話の範囲が広くなっていることに、ルークは気づいていないだろう。そして、マイが目を回しそうになっていたことにも。

「やれやれ、あの坊ちゃんは」

 ため息をつきながら、ガイはルークたちの向かった方向へ駆け出した。





「ジェイド!」
「おや、ルークではありませんか」
「どうしたの?」

 ルークの声に、振り返ったのはジェイドとアニスだった。
 ガイの言葉通り、ジェイドの手には白い器があった。そして、湯気は上がっていない。

「ジェイド、それをどこで……」
「いやー、たまには糖分を摂取したほうがいいと思いまして……」
「やっぱりジェイドか!」
「はい?」
「それを返せ!」

 剣を抜きそうな勢いのルークがジェイドに突進する。それを難なく避けたジェイドは、笑顔を貼り付けながらルークに向き直った。

「突然仲間に襲いかかるのは感心しませんね」
「仲間だって言うなら、なんでそのプリンを持ってるんだ!」
「これは私のものですよ」
「どの口がそんなこと言ってやがる!」

 振り回されるルークの腕を避けながら、なおかつ器を手放さないジェイド。それをアニスと共にハラハラしながら見守っていたマイは、ふと見えた“それ”に、あっ、と声を上げた。

「ルーク!」
「うおりゃあぁぁぁ!!」

 ぶんっ、と振ったルークの手がジェイドの持った器に当たった。器はジェイドの腕を離れ―――。

「あっ……」

 器は真紅の頭に当たり、それからルークを追いかけてきていたガイの手の中に入った。
 真紅の頭とは言わずもがな―――。

「あ、アッシュ……」
「こんの……屑があぁぁぁぁ!!!!」
「うわ、アッシュ、ちょっと待て! これはその、何と言うか……」
「いやー、ルークは本当にアッシュが嫌いなんですねぇ」

 火に油を注ぐようなことをさらりと告げるジェイド。
 ……しばらく、ルークはアッシュに追いかけ回されたとか回されていないとか。





「結局、ジェイドさんの持ってたのも違ったの?」
「うん。器にお店のマークが入ってたから……」

 自身のものではないことにショックを受けているのだろう、マイはしゅんとしながら答えた。そんなマイにティアが問う。

「だけど、なんでそんなに必死に探してたの?」
「だって……。せっかくもらったものなのに……」

 マイのために、とくれた相手の顔の顔が浮かぶ。

「仕方ないわ。きっと相手もわかってくれるわよ」
「う、うん」

 プリン消失事件は、犯人のわからないまま幕を閉じるのだった。





「みゅ?」

 聞こえる寝息に、ミュウは視線を上げた。
 テーブルの上にあるのは空になった器。そして、寝台に眠るのはぬいぐるみのトラ。

 誰も知らないところに、犯人はいた。
 とりあえず、誰も知らずに終わったが。


++++


 『ラムル・ノワール』の候さまへ捧げた相互記念です。勝手ながら候さま宅のオリジナルキャラさんを出してしまいました。後悔は……、してないです。お叱りは受けます。
 候さんのところの夢主さんとオリジナルキャラさんのコンビが好きです。
 相互ありがとうございましたー。



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