タバコ




部屋の電気をつけて窓を開けると
夏の夜の湿った空気が部屋に入り込んできた。



テレビをつけてみたけど
内容はぜんぜんあたまに入ってこない。


私のアパートのワンルームの部屋にはまだ
彼の好きなタバコのにおいが染み付いていて
すこしくさい。




昨日の夜、トシと喧嘩した。
きっかけは些細なことだったけど
たぶん、私が悪かった。

大喧嘩した挙句、嫌いだといってしまった。
私のこと全然わかっていない、そういってしまったときの
トシの悲しそうな目を思い出して心臓がちくりとした。


トシはすまなかったな、といって出て行ってしまった。



机の上には、トシがいつも吸っていたタバコ。
私はこのにおいが大嫌いだった。
煙たいし、キスは苦いし、くさいし。

それでもなぜか手が伸びてしまった。

タバコに日をつけて一口吸ってケホとむせる


おいしくない。くさい。なのに
トシのにおいを思い出して涙が出てくる。



そういえば、私を気遣ってベランダで吸ってくれていたっけな。



私は鼻をすすりながら灰皿にタバコを押し付け
ベランダに出た。

夏の生暖かい風が頬をなでる。




私のこと、わかってないなんていっておきながら
やっぱり考えると一番私のことをわかっていたのはトシだし
一番私のことを思ってくれていたのもトシじゃんか。


自分が言った言葉にどうしても後悔しか生まれない。



今、すごく会いたい。
でももういなくて。






たばこ



「おい、サク」

「え」


ベランダで泣いていると、聞き覚えのある大好きな声。
振り向くと合鍵で入ってきたであろうトシの姿。

「なんで」

「ほらよ」

乱暴に渡されたのはビニール袋に入った
私の大好きなお菓子の数々。


「これでも、お前のことわかってねえかよ」

照れくさそうに、でも様子を伺うようにこちらを見るトシに
私は思わずビニール袋を放り投げて飛びついた。
ふわりと香るいつもの香り。大嫌いで大好きな香り。


「わかってないのは私だった、ごめんね」


素直に謝ると背中に回された大きな腕に力が入る。
そして、少し短めのキスをした。


苦いキスは、少し甘く感じた。









たばこ*コレサワ







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