永遠に続けば 方舟にユウ達が吸い込まれて数十分。ユウが一人でノアと戦ってる気がした。…いや、絶対戦ってる。私はただ、ただひたすら祈ることしか出来なかった。 そしてミランダのイノセンスから一人の時間が消えた。 ユウが…?生きてるって信じてるはずなのに涙が止まらなかった。 悲しくて、寂しくて、恋しくて、愛しくて…。 一時して少し周りが騒がしくなった。でも私は気にもせずに泣いていた。声をあげて泣いていた。 「名前っ、名前ーっ!!」 マリの私を呼ぶ声。気づいてはいるけれど、頭の中が真っ白で顔も口も動かない。 …苦しい 「…い。おい」 幻聴。変なの。ユウの声が聞こえた。ユウの…。 「てめ…無視すんじゃねえよ」 「……っ!!」 「名前」 「っ…ユウ!!…ユ…っ」 動かなかった頭も口も心も、愛する人の…ユウの声で動き出す。その魔法を解いたのはユウの心音。ユウの腕の中で息が止まるほどに抱き締められる。 「泣くな」 「っユ…ウ…っ、生きてた…っ、ユ、」 「死なねェよ。お前を置いて」 「…き、好き…っ、好きっ…ユウがいないとっ…私…嫌だよ…おかしくなっちゃうよ…っ」 「俺もだ」 「……ん」 軽く唇に触れるキス。私の涙のせいか…少ししょっぱくって、でも甘かった。顔が離れていく。ふと、ユウの胸が目に入る。 梵字が…以前よりまがまがしく変化していた。 「……っ…これ」 「ちょっと…命を削りすぎただけだ」 「ばか…」 胸のそれを手で優しくなぞってキスをおとす。ユウは私の髪をそっとなでる。何だか暖かくって、くすぐったくて。気持ちのいい二人だけの時間。 「帰ろう、ホームに」 「ああ」 「名前っ!!」 「あれ?婦長さん、どうしたの?」 ノアの一族との大戦から数日。方舟に乗り、戦ったエクソシスト達の傷はまだ癒えてなくて、医務室からの外出は許可されていなかった。ユウも例外ではない。私は丁度、医務室へお見舞いに行くところだった。 「神田がいないのよっ!!一緒に探してくれない?」 「また?わかりました。私、こっち探しますね」 「ありがとう」 "探す"と言ったけどユウのいるところはわかっていた。 きっと…あそこ。 私は今来た道を戻ってある部屋へと入った。 「やっぱり」 思った通りユウはこの部屋のベッドですやすやと寝息を立てて寝ていた。 綺麗な顔…長い睫毛…サラサラの黒髪… 全部全部愛しくて、優しく頬を撫でる。寝ているから全く抵抗をしないユウが何だかとても可愛く思えてくすくすと笑いながら、頬っぺたや首を人差し指でつついた。 「ん…くすぐったい」 「おはよう。婦長さんが探してたよ。医務室に戻らないと、また怒られちゃうよ?」 「うるさくて寝れねぇんだよ、あそこ」 ユウはゆっくりと体を起こす。私はベッドに腰かけて、ユウに寄り添うと、肩に手を回されて胸に引き寄せられる。 「だからって…どうして私の部屋で寝てるの?」 「俺の部屋だとすぐバレんだろ。それにこの部屋のが、居心地がいいんだよ」 「ふふっ、それはユウの部屋の窓ガラスが割れてるからよっ」 「うるせぇ」 言葉とは反対に軽く微笑むユウ。私もつられて笑顔になった。 「ねえ。…ユウ、どこもいかないで」 「行かねえ」 「本当に?」 「ああ」 「本当に本当?」 「ああ」 「もう…戦わないで」 「は?それは無理だ」 「ふふっ。うそだよ、嘘」 「嘘かよ」 「……」 「……」 「名前…愛してる、ずっと」 「うん…私も」 ユウ…本当は嘘じゃないよ?あなたに戦いで傷ついてほしくないから。でもそれは無理だってわかってるから。ワガママは言わないよ。もう十分ワガママだけど… このユウとの時間が… この小さな幸せが… 永遠に続きますように… siori |