ガムシロップの口付け2 | ナノ


変化球、アウトライン

部活に金久保先輩来るんだ。お昼を一緒に食べていた月子先輩が嬉しそうに言った。やっぱり元部長の存在は大きい。私もお菓子持って会いに行こうかなと思った。
もうすぐ秋の大会があり、部活はかなり詰めているらしい。誉先輩も指導に回る。私も誉先輩に会いたかったけど邪魔しちゃ悪いなと箸をくわえて考えていると、月子先輩は名前ちゃんも部活来る?と首を傾げながら聞いてくれた。月子先輩天使すぎる。欲しい時に優しくくれる欲しい言葉。嬉しすぎて笑顔というよりニヤけ顔になっているけど、この際どうでもいい。
でも大会近いから誉先輩が来るわけで、忙しいのに私の相手をさせるわけにはいかない。残念だけど、またの機会にすることにした。そう言うと月子先輩はそっかと残念そうな顔をした。


「あああ、でも大会見に行きたいなって思ってるので!頑張って下さい」

「本当?名前ちゃん大会見に来てくれるの」

「行ける場所ならですけど」

「大丈夫、今回近いから!名前ちゃん来てくれるから絶対頑張らないと」


月子先輩が本当に残念そうな顔をしたので、慌て口を開いた。そんな悲しそうな顔をしてほしくない。試合に行きたいと伝えるとガッツポーズをする月子先輩を見て、お弁当でも作ろうかなと考える。そうしていると昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。



嬉しいことがあった同じ日の放課後、私は既にテンションを落とされていた。原因は手の中いっぱいの資料。陽日先生が明日の1限目にある天文の授業で使うから運んでおいてくれって。確かに本人は水嶋先生の追跡で忙しそうだったけど、たまたま通り掛かった女の子に頼む量じゃないよ。
早く帰りたかったのにと思いながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「なにフラフラ歩いてるの。邪魔なんだけど」


冷めた声色。誰かだなんてすぐに分かった。足を止めしょうがないじゃないかと振り向くと、相手は私の手の中をじっと見てきた。


「…なに?」

「いや、すごい量だね」

「そう思ってるなら手伝わない?普通。」

「僕はこれから教室に鞄取りに行って部活行くからそこまで暇じゃないんだよね。名字の好きな金久保先輩も来るよ」


ああ、部長って言われないと本当に引退したんだと今更ながら感じてしまう。的外れなことを考えていると、名字をもう一度呼ばれる。我に返って、今日は邪魔したくないからと愛想笑いを浮かべながら返した。それに対して大した返事が無いのも分かってるけど。
話が途切れたので前を向き、もう一度歩きだすと木ノ瀬が私を追い抜かしていった。そして3歩前を歩いて一言。


「宇宙科の教室までなら手伝ってもいいよ」


そう言った。何というか、はじめからそう言ってくれると助かるんだけど。でも、まぁ彼なりの優しさとするか。突き放して最後に手をちょっとだけ貸してくれる奴だっていうのはもう知っている。そして宇宙科の教室までなんて言いながらしっかり天文科の教室まで運ぶのも。
ありがと、そう言うと別にと素っ気ない返事が返ってきた。






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