ブラックコーヒー症状 『あんたさ、本当は東月先輩が好きなんじゃないの』 『名字のその言葉、八つ当たりだって分かっている?』 『自分から何も出来なかった事が悔しいくせによく言うよ!』 『夜久先輩と東月先輩は名字を嫌わないよ』 いつだって木ノ瀬は聡く、私の真髄を見抜いていた。そして逃げられない的確な言葉をくれる。 悔しいけど私はその言葉に救われていた。ちゃんと自分の気持ちに向き合えた。見えていた結果は変わらなかったけど、自分の何かが変えられたと思う。 だから………… 「宮地先輩、こんにちは。今日も一段と男前ですね」 「む…またお前はそういうことを」 弓道部に差し入れを持って遊びに行ったら宮地先輩しかいなかった。 宮地先輩は本当に男前だと思う。堅いけど、日本男児って感じ。目の保養だなぁ。そう思っていたら残りの先輩方が入ってきた。 犬飼先輩と白鳥先輩がズルいと叫んでいる。2人はもう少し静かだったらカッコいいと思う。いや、白鳥先輩は可愛いかもしれない。 「名字はミーハーなわけ?」 後ろからため息を吐かれたと思えばそんな声が響いた。どうやらいつの間に木ノ瀬が入ってきたらしい。 なんだか木ノ瀬にミーハーだと言われるとかなり馬鹿にされたように感じる。いや、事実そうだ。 私は目の癒しを求めているんだと言えば興味なさそうに流された。自分から話吹っ掛けておいてそれはない。でもここで噛み付いたら私が大人気ないだけだ。 このパッツン悪魔。心の中で言っておいた。 月子先輩も来たので差し入れ披露。今日はマドレーヌを大量生産した。味もプレーンは勿論、ココアに抹茶、ドライストロベリーが売っているのを見付けたから苺味もある。 宮地先輩の目がすごく輝いている。やっぱり作ったお菓子はこんな風に喜んでくれる人にあげるのが私も一番嬉しい。宮地先輩だけでなく、他の先輩も美味しいと感想をくれる。作って良かったな 部活が始まり、邪魔になるので私は帰ることにした。お辞儀をして道場を出ていくと、木ノ瀬に呼び止められた。 「これ、忘れ物。」 「あ、そうだった。ありがとう」 「あと…」 東月先輩は吹っ切れたわけ? 突然の質問に一瞬、時が止まった。吹っ切れた、か 私は一呼吸置いて笑顔を作った。もう未練は無い。好きじゃなくなったかと聞かれたら頷けないが、吹っ切れてはいる。何より2人の幸せそうな笑顔が見れるなら私も嬉しいと思っている。 そう言えば木ノ瀬は目を伏せて、短くふぅんと言った。 私は木ノ瀬みたいに敏感ではない。ただ、これだけは分かった。 木ノ瀬は、まだ月子先輩を諦められないでいるんだ。 ← |