猫は嘲笑う 「…何、木ノ瀬。」 「いや?本当に名字って夜久先輩とは大違いだなぁって見てただけだよ。」 月子先輩が行った後、私は木ノ瀬と2人きりというなんとも気まずい状態に。そんな中、相手が私の顔をじっと見てくるもんだから聞けばこの返事。この野郎、言わせれば…。言い返してやりたいけどそんな事する程子供じゃないし、何より本当の事だから言い返せない。 私の見た目は月子先輩みたいに可愛くもなければ、モデルさんみたいに美人でもない。今だに中学生に間違われたりするから童顔なんだろうけど。だからと言って、月子先輩が妬ましいだなんて思わない。寧ろ憧れ。私は心からこの人の後輩になれて良かったと思う。これが他の人だったらそう思えないかもしれないけど、月子先輩の性格というか人柄がそうさせていると思う。 だから… 斜め前に座る木ノ瀬を見る。 こいつなんかに月子先輩を取られてたまるか。月子先輩が本当に木ノ瀬を好きになっちゃったら止めないけど、月子先輩みたいないい人がこんな悪魔と付き合ったら泣かされる羽目になる。 無意識に睨んでいたらしく、木ノ瀬が顔を上げた。 「なに?僕が月子先輩にアピールしているのが邪魔だって?」 「…よく分かったじゃん。」 視線だけで私が何を思っていたかを察する事ができるのは流石だ。肯定すれば鼻で笑うように続けた。 「そんなの人の勝手でしょ。あんたなんかに止められる筋合い無いんだけど。」 「それは間違ってない。でも、木ノ瀬みたいな人と付き合うようになったら月子先輩絶対辛い思いする。」 「…へぇ、僕をよく知らないくせに随分言ってくれるよね」 「本当に、好きかどうか…気持ちがあるか分からないあんたに月子先輩は相応しくないってこと。」 バチリ、と視線から火花が飛び散りそう。一触即発とはこういう事だと思った。 木ノ瀬が物事に執着心が無いのは、初めて会ったあの道場から感じていた。そして周りの噂。 同じ1年だから他クラスの噂がよく流れてくる。木ノ瀬みたいな目立った奴は特に。その場合、うちのクラスには小熊くんがいるから実際どうなのか裏が取れるし。 何でもできちゃう天才故に執着心無い…ね。生憎天才には程遠い私にはその気持ちが分からなかった。天才だから執着心が無いって言うのは理由に繋がるのだろうか。 「確かに僕は物事に執着できない。それは否定しないよ。でも月子先輩は別。あの人は僕を掻き乱す。初めて執着できた人なんだ。」 「何それ」 「だから、僕は辛い思いなんかさせない。…東月先輩よりもね」 自信に満ちた表情で言った後、木ノ瀬は食べ終わったパックを持って立ち上がり、食堂を出た。 木ノ瀬は気付いていたらしい。私が錫也先輩を応援している事を。それがバレたからってどうもならないけれど、なんかムカつく。 私は箸を置いて立ち上がり、お盆を片付けた。なんか、負けたくない。 ← |