ガムシロップの口付け | ナノ


甘い菓子の誘惑

ふわんと香るパウンドケーキに満足感を覚える。綺麗に焼けた。簡単なお菓子とはいえ、誰かに食べてもらうものなら上手くできた達成感は大きい。後ろを振り向けば手際よく、クッキーとマカロンを並べている錫也先輩。私がパウンドケーキ作る間に2種類を作り上げるなんて流石。しかもすごく美味しそう。
錫也先輩が洗い物をしている隙を狙って、マカロン1つ拝借……


「こーら、何してんだ」

「いっ……痛いですよ」


バレました。いつの間に戻ってきた錫也先輩にデコピンされ、弾かれた部分を押さえる。…かなり本気で痛い。絶対おでこが赤いと食器棚のガラスに前髪を上げておでこを写していると、口に甘いものが突っ込まれた。


「摘み食いは良くないが、味見くらいはいいだろ?」


口をモグモグさせながら錫也先輩を見るといい笑顔でマカロンを手にしていた。イケメンは何をしても絵になると目に焼き付ける。

あ、このマカロン、イチゴジャム入りだ



今日は月子先輩が部活に出ると聞いたから差し入れをしようと食堂のキッチンを借り、パウンドケーキを作っていたら錫也先輩が来た。どうやら同じ考えだったらしい。
錫也先輩とは時々こうして一緒に料理をする仲。彼の手捌きは見ているだけで勉強になる。ついでに目の保養になる!


「こんにちはー」

「あ、名前ちゃんに錫也?どうしたの」

「差し入れを持っていってやろうとな、ほら。」


お菓子を詰め込んだバスケットを見せるように上げると目を輝かせる月子先輩。あぁ可愛らしいです。本当に作って良かった。
ついでに仏頂面の宮地先輩が湧くように現れた。


「宮地先輩こんにちは。今日も男前ですね。」

「む、いきなりなにを…」

「大丈夫ですよ、男前宮地先輩の分もたくさんありますから」


そう言えば照れたようにお礼を言う宮地先輩。このギャップはポイントが高い。宮地先輩は本当に美味しそうに食べてくれるから作りがいがある。
金久保先輩が手を叩いて休憩を知らせると次々と集まる弓道部の先輩。綺麗な笑みでみんなで食べてもいいかなと聞く。当たり前じゃないですかと返せばありがとうと頭を撫でてくれた。金久保先輩はお兄さんみたいだ。

錫也先輩が大きな水筒に入れて持ってきた紅茶と私達が作ったお菓子での休憩は楽しい。犬飼先輩と白鳥先輩が超笑顔でお菓子を頬張る宮地先輩にちょっかいを出して怒られている。金久保先輩は私に美味しいよと感想をくれ、小熊くんも天使の微笑みをくれた。同じクラスながら癒しだわ…

そんな和やかな雰囲気の中、道場の引き戸が開けられた。


「スミマセン、日直で遅れました。」


…誰?









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