crying cat | ナノ


夏休み真っ最中の今日、うちの学校にも着々と近付く文化祭に向けて準備をしていた。料理の専門学校ということで、大体のクラスは料理関係の出し物をする。そして勇気あるところはステージ発表もやったりする。うちのクラスがその一例だったり。学級委員、こういう行事好きだったなと看板の飾りをしながら思った。
うちのクラスは教室、屋外と別れる場所取りで両方のメリット、デメリットを考えた結果、ステージでの人手を考え少ない人数でできる屋外屋台を選んだ。その分目立つ看板を作れよと気張っていた。頑張るなぁ。

ふと龍之介に星月学園の文化祭に誘われた事を思い出した。正直、不安もある。夜久さんと仲良くなれるのか。龍之介が押すからいい子だということは間違い無いとは思うけど、それがまた違う不安を生み出していたり。
でも、龍之介が過ごす学校を見るのが、学校生活を見るのが楽しみだったりもする。


「名字ー、お前に客だとよ」

「うん、分かった」


突然教室の入り口付近で準備をしていた友達が私の名前を呼んだ。誰だろう、こんな忙しい時期に。ペンキを塗っていた刷毛を缶の中に放り入れ、教室の外へ向かった。

外で待っていたのは知らない男の子。記憶が間違って無ければ隣のクラスだったはず。私との接点なんて全く無い。そんな彼が私に何の話があるのだろう。全く予測が付かないまま話しだすのを待っていたら、場所を移動しようと言われた。何となく挙動不審な行動、人目を気にする様子。あぁ、分かったと思った。接点無いから違うと思ったけど、多分8割方間違って無いんじゃないかな。
告白されるといつも困ってしまう。それも先に分かってしまった場合。まだ言ってないのになんて断ろうか考えてしまう。最低だって分かりながら、偽って付き合うよりはって自分に言い訳をする。


「名字さん、俺隣の組の橋本って言うんだけど良かったらメールとかしないかな?」

「えー…と、それは」

「率直に言えば好きだ。隣のクラスで見ててすごく気になってた。でもいきなり付き合ってなんて無理は言えないから、友達からって事で。」


予測できなかった状況だってある。正に今。告白されるよりもどうすればいいか困るパターンだった。まさかメールからくるとは。
まだ何も知らない人なのにメールまで断ったら申し訳ない。私は脳内細胞をフル活用した。どうするべきか。


教室への帰り道、アドレス帳に一件増えた所を見た。結局、交換してしまった。あれをどう断ったら模範回答なのか、分かる人がいたならば教えてほしい。
画面の一番下に映る好きな人の名前に懺悔しながら私は足早に教室へ向かった。









- ナノ -