crying cat | ナノ


スポンジケーキを冷ます間、生クリームを泡立てていた…龍之介が。昔からこの作業は彼がやっていた。どうやらこだわりがあるらしい。正直分からん。そしてなぜ泡立てているだけでこんなに幸せそうなんだ。私は乗せるフルーツを切りながら思った。


「あぁ、そうだ。お前に頼みがある。」

「何?」

「秋に文化祭があるんだが、来てくれないか?」

「へ?」


思わず包丁の手を止めた。文化祭、に誘われた?半開きになる口を閉め、聞き返した。
去年は誘われなかったので、行く勇気が無かったが、今年は行っていいんだ。込み上げる嬉しさを押さえ、また手を動かす。


「夜久が」

「え、誰?」

「この前来ただろう、1人女子の。あいつがお前と話をしてみたいって言っていたんだ。なかなか女の相手がいないからな。仲良くしてくれないか?」


また心臓が跳ねた。あの女の子が私と話したい?予想外の理由に困惑した。龍之介と仲良さげに話す姿がフラッシュバックする。心なしか、今夜久さんの名前を口にした龍之介の表情はいつもよりは柔らかかった気がした。
夜久さんの為に呼ばれたのか。


「分かった、日にち分かったら教えてよ。バイト空けておくからさ」

「すまないな」


心が締め付けられたが、龍之介の学校生活が見れるという期待が勝った。了解すると、龍之介は言葉と反対に嬉しそうに笑った。

飾り付けたケーキを切り分ける。家族がいないため、小さめに作ったケーキを2人で分ける。流石に半分も食べれないから龍之介が殆ど食べるのだけど。
ケーキを食べながら龍之介の学校の話を聞いた。なかなか聞く事が無かったので新鮮だった。普通の学校と違う勉強内容、ほぼ男子校だからこその休み時間。部活、インターハイの話を聞いた時、見に行けば良かったと後悔した。来年も優勝すると意気込む龍之介を見て、私も来年は見に行こうと決めた。そして仲間、この前来た木ノ瀬くんとはライバルだと言う。そして、


「夜久は人一倍頑張れる奴だ。俺もあいつの精神力を見習いたい。」



夜久さんの話は龍之介の雰囲気が違った。前より優しくなった?楽しそうに話す龍之介に、悪くない夜久さんに嫉妬した。確かに、前お店に来た時もいい子だったという印象だ。私には無い女の子らしさがあった。

私も、もっと頑張ってあの学校に入れば、何かが変わってたのかな。

そんな後悔がまた過った。龍之介の大好きな甘ったるい生クリームの味が感じないくらい、舌が乾いていた。









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