crying cat | ナノ


「名前いるか?」

「…へっ!?」


歯磨きをしながら郵便受けの新聞を取りに行こうとしたらインターホンが鳴りドア越しに声が響いた。名前が呼ばれ戸惑ったが、紛れもなく龍之介の声だ。


「りゅーのふけ、くぁえってはの?」

「…お前、歯ブラシ置いてから言え。って、しかもなんだ!その格好は!!」


思わず反射的にドアを開けると龍之介が立っていて、歯ブラシを口から落としそうになった。取り敢えず立ち話もなんなので中へ入れた。

夏休みの今日、親はいつも道理既に仕事に出掛けており、バイトも無い私はのんびりとした朝を迎えていた。そこに来たのが龍之介。
龍之介は夏休みのインターハイを終え、昨日実家に帰省したらしい。インターハイの結果は見事優勝。お祝いのケーキでも一緒に作ろう。

だが、この子はさっきから目を合わせない。私の格好を見るなりはしたないと言い、目を合わせなくなった。しかし私の格好は龍之介が赤面する程の格好ではない。確かに短パンだけど、ズボンであってスカートではないし、上もTシャツで普通だ。夏だからこれ以上厚着はしたくないし。
目を合わせず、顔を赤くして龍之介は出したジュースを飲んでいた。


「あのさぁ、これくらい普通でしょ。世の中の女の子を暑さで殺す気?」

「む、だが足を出しすぎだろう」

「いや、普通の短パンですが」


どうやら龍之介は見た目だけでなく、中身の思考までが武士らしい。今時の男の子でこれくらいの露出、いや露出って程出してないのに赤面するなんて珍しいものだ。
その時思わず首を傾げた。

あれ?これってもしかして、私女の子として意識されているの?
意識しなかったら気にしないよね?顔を赤くしないよね?

そう気付くとぼぼぼと上がる体温。今、目の前の武士みたいに私の顔は赤いだろう。
でもヤバい、本当に嬉しかった。

「あ…えと、優勝記念のケーキ、作らない?」

「あ、あぁ」


ぎこちなくソファから立ち上がり、龍之介に呼び掛けると彼もまたぎこちなく返事した。なんでこんな事だけに恥ずかしくならないといけないのよ。ギクシャクした雰囲気が堪らずやっぱり服替えてくると言い残し、リビングに龍之介を残したまま部屋を飛び出した。


バタンと部屋の戸を閉め、ドアを背に大きく息を吐いた。
反則だ、あんな真っ赤になって目をうろつかせるなんて。卑怯だ、私をこんなにドキドキさせるなんて。龍之介を男の子として意識し過ぎてあんな照れ方されたら期待しちゃうじゃん。


「…馬鹿」





「俺は何してるんだ…」









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