crying cat | ナノ


中へ戻って注文を出すとバイト仲間が集まってきた。


「ちょっと名前なにあれ、今日宮地くん大人数引き連れて来たじゃない。しかもイケメン揃いに紅一点の美少女!」

「私あのパッツンの子、可愛いと思う」

「あの優しそうな人もいいよね」


案の定、食い付く話題は龍之介達の事。さっき私が話していた姿がどう映っていたか分からないけれど、あの人達とどういう関係か聞かれた。と言っても、私自身初対面だし。龍之介の部活仲間らしいよと言えば、類は友を呼ぶ!とバイト仲間は拳を握っていた。成る程ね、確かにみんなイケメンだ。

ちらりと龍之介を見る。女の子と楽しそうに話す姿が私の胸を痛める。誰のでもないのに、龍之介と話してほしくないだなんて嫉妬。醜くて自分を嘲笑った。
バイト仲間も2人を見て、もしかして彼女?と騒ぎ立てる。あぁ、やっぱみんなにもそう見えるのか。2人お似合いだもんね。お盆をぎゅっと握り締めて厨房に入った。これ以上2人を見ていられなかった。



「お待たせしました。」


お盆に色とりどりのお菓子を乗せ龍之介達の机に向かった。フルーツのタルトは例の女の子が頼んだらしく、手を合わせて喜んでいた。そんな女の子らしい仕草、私には出来ないな。目の前にお皿を置くとありがとうの言葉と輝くばかりの笑顔。龍之介が優しい表情するのも分かる、素敵な人だった。
それぞれのお菓子や飲み物を置き、伝票を渡そうとしたら白鳥くんがなぁなぁと身を乗り出して来た。


「名前ちゃんって宮地と幼なじみなんだよな?小さい頃の宮地ってどんなだったの?」

「小さい頃の龍之介?うーん、そうだなぁ」

「おい白鳥、お前何を聞いているんだ。名前も真剣に考えなくてもいい」


白鳥くんはいつの間に私を名前で呼びようになったかと思いつつ、それはスルーした。小さい頃の龍之介かぁ。龍之介は私を止めたが、犬飼くんや木ノ瀬くんまで乗って来た。


「宮地くんの小さい頃かぁ、私も気になるな」

「確かに、ちょっと想像付かないよね」

「夜久と部長まで…」


そして女の子までもが乗って来た。結局私は曖昧にバイト中ですのでと頭を下げ、龍之介に伝票を渡して中へ下がった。

そっか…みんなは小さい時の龍之介を知らないのか。ふと思った。高校からの出会いだもんね。私しか知らない龍之介があると知った。どんなのだったと聞かれても教えたくないくらい、優越感。でも同時に焦燥感。
今、あの人達と話す龍之介は紛れもなく高校生の龍之介。別の学校になってから知らない龍之介の顔。学校生活も、行事の思い出も共有出来ない、成長していく龍之介だ。
なんで、別の学校にしたんだろう。ううん、なんで別の学校に行っちゃったの?

醜い思いを押し込め、別のお客様をお出迎えしに笑顔を引き出した。










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