今日部活だったかも。そう思って苦笑する。もしかしなくても部活の人たちとお祝いしているのかも。 昨日の電話から日付が変わった今日、11月3日。幼なじみで好きな人の誕生日。白い箱を下げて私は星月学園の前にいた。 他校の制服で目立つせいか、通る生徒に注目されている。だんだん居心地が悪くなり、帰りたい衝動に襲われる。でも、今日は絶対に龍之介に伝えないといけないことがある。言わなければ帰れない。 箱を持ち直し、私は近くの電柱にもたれかかった。 何時間か経った頃、肌寒くなった。帰るかどうか、決断が揺らぎだした。その時、月子ちゃんが私の名前を呼んだ。 学校のほうに目を向けると、月子ちゃんをはじめ、弓道部の方々が驚愕の表情を浮かべながら歩いてきていた。勿論龍之介の姿もあった。 「龍之介の帰りを待っていたの。」 私が龍之介を見定めて言うと、他の人達が顔を見合わせた後、静かに帰って行った。ここに残るは2人になった。まずは誕生日のお祝いをしたい。 白い箱を差し出しながら『誕生日おめでとう』と言えば、龍之介は照れ臭そうに受け取ってくれた。中身は言わずもがな、私が作ったケーキである。何のケーキかは龍之介なら分かってくれる。 本題はここから。私は気温に合わず、汗ばんだ手を握りしめた。 今まで1人では前に進めなかった。友達やクラスメイトに背中を押してもらって、月子ちゃんに話を聞いてもらって、今も鞄の中で泣いている猫のぬいぐるみに勇気をもらっていた。 今度は、自分で伝えたい。ちゃんと知ってほしい。 小さい時から一緒に過ごしてきた龍之介。いつからか、仲のいい幼馴染から大切な人になっていた。他校という距離、気持ちの擦れ違い、高校生になってから少しずつ変化があって、変わらずにはいられないことを知った。 龍之介には大切な人がいる。 幼馴染なんて、いつまでも続かないのだ。 それでも…毎日のメールや電話、一緒にケーキを作ったことや文化祭の思い出は私にとって今でも大切な時間で。 「龍之介、目を閉じて。最後まで一言も話さずに聞いてほしい。」 「…分かった」 伏せられた瞼を見つめながら、一つ一つ言葉を確認しながら息を吐く。 「私は幼馴染なんてただの長い友達の枠であって、それぞれの生活が確立してくれば自然と消滅するものだと思う。でもさ、私にはその薄っぺらい枠が大切なんだ。龍之介には些細な出来事も、私には一生忘れられない思い出になると思う。…それで十分かなって思うんだ。」 「…………」 「敢えて言うことじゃないけれど、幼馴染やめよう龍之介」 「なっ…」 「好きでした、すごく、すごく大切な人です。ありがとう。…ばいばい」 もう、この気持ちを持って会わないよ。たくさん思い出作れたから。 龍之介が大切な人と上手くいけばいいと、軋む心ながらに思う。 ← |