crying cat | ナノ


レジを終わらせた私はオーナーに一言言って少し休憩を貰った。龍之介を待たせると恐い。説教してくるし。
エプロンを外し、スタッフルームの椅子に掛けるとロッカーを急いで漁る。あれどこに入れたっけ?お目当ての物を鞄から出すとスタッフルームを走って後にする。

途中、急ぎすぎて段差に躓いて派手に転んだ。龍之介に渡す物を死守したために手が付けなかった私は顔から転ばなかったものの、膝に擦り傷を作った。後から消毒しよう。見ていたらしいバイト仲間が大丈夫かと声を掛けてくれたけど曖昧に返事をしておいた。最優先は龍之介だ。


「ごめん!」

「遅い!と言いたいが、レジが混んでいたんだろう?仕方ない」


なんだよ、怒ってないのか。ちょっとだけほっとした。龍之介に渡したかった物を渡す。


「これ、作ったけど余ったんだよね。いらない?」

「ロールケーキか。ありがとう」

「言っておくけど、余り物だよ?」


龍之介はちょっとだけ笑って受け取ってくれた。それが堪らなく嬉しい自分がいる。少ししか笑ってないけれど、本当はすごく喜んでいることが分かっているから。なのに口から出る言葉は可愛くない言葉ばかり。素直じゃないなと自分で苦笑する。

私は家でよくお菓子を作る。高校がお菓子作りの専門学校っていうのもあるけど、何より一番の理由は龍之介に食べてもらうため。小学生の時から色々作ってはあげたものだ。お菓子作りの専門学校を選んだのも将来、パティシエになりたいから。と言うけど、パティシエの前に『龍之介のために』が付く。
気付けばそれ位、幼なじみが好きだった。


「って、名前!お前膝をどうしたんだ」

「膝?あー…待たせてるからって慌てて走ったら転けたんだよね。うわ、靴下まで血が滴れちゃった。早く洗濯物しないとな」

「ふざけるな!さっさと消毒せんか。」

「…これくらい大丈夫なのに」


せっかく怒らせずに済んだのに、結局些細な事で怒られた。血は結構出ているものの、見た目程痛くないのにさっさと洗えと店の中へ返された。そして背中越しに絶対消毒しろ、気を付けて帰れと念を押された。煩い幼なじみだ。

…でも、それって私を心配しての言葉だよね?そう思うと頬の筋肉が緩んだ。









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