crying cat | ナノ


月子ちゃんは優しく行っておいでと言うように背中を押してくれた。その時崩れたメイクを直す時間を確保して。


「何で待つ必要があるんだ?」


龍之介は分からないという声色で問うが、背中越しに月子ちゃんが『女の子はいつでも可愛くいたいもんね』と私に優しく言った。

それからはよく分からない。龍之介は緊張する私の手を引いている。気まずさしか無かった。唯一分かるのは、龍之介が私のことを迎えに来てくれたということだけ。
なのに、仲直りができないなんて。龍之介が今何を考えているのかも分からなかった。


何でこうして引かれているんだろうと考えていたせいか、どこを歩いたのか分からなくなっていた。ただ気が付くと龍之介のクラスまで連れて来られていた。
龍之介は無言でその中へ入っていく。その時に引かれていた手は離れてしまった。


「いらっしゃ…って宮地かよ。お前シフト終わったんじゃねぇの?」


中に入ると白鳥くんが接客をしていた。さっき私が来た時にいた生徒は、みんなシフトが終わったのかいなかった。だから私と龍之介の気まずさを知る人はいない。良かった、と少し安心した。
パッと顔を上げると白鳥くんと目が会う。会釈をすると成る程ねー、と1人ごちてお客さんの方へ行ってしまった。何が成る程なんだろう。
龍之介は予約表を見ながら何やらしている。


「あの部屋を使いたいのだが、空いているか?一応予約はしてあるが」


何のことを言っているんだろう?そう思っていると、龍之介のクラスメイトらしき店員さんが騒ぎだした。


「ちょ、宮地がVIPルームを!?」

「どういうことだよ、あいついつの間に」



よく分からないが、大事になってきた。状況がいまいち掴めない私は縮こまってしまった。
その時、ポンっと肩を叩かれた。振り向くと龍之介のクラスメイトである店員さんがいた。
彼はまじまじと私を見た後、へぇと笑いながら聞いてきた。


「君が宮地の彼女かな?」

「へ、かの…」

「悪いがこいつは見せ物じゃない。あんまり見るな」


彼女じゃないですと否定しようとした瞬間、口を塞がれた。同時に引き寄せられ、龍之介にもたれかかる形になる。
周りが口笛を吹く。ますます大事になり、私は赤面してしまった。これは勘違いされている。ちゃんと言わなきゃいけない。龍之介とはそんな関係ではないと。



…本当に否定したいの?

そうもう1人の自分が言う。
龍之介が否定しないことにどこか喜んでいるんじゃないの?
その答えは出る前に私は龍之介に引き摺られるように教室の奥へと押し込まれた。






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