crying cat | ナノ


龍之介の待ち受け…。
そう呟くと東月くんは頷いた。出会って数分、ここまで会話が進んで話せるのは、東月くんのトークスキルの高さがあったからだと思う。
東月くんが私を知っていた理由は、龍之介の待ち受けにいた私を東月くんの幼なじみが気付いて聞き出したかららしい。恐らくケーキと撮ったツーショットだ。


「おい錫也、なに女子ナンパしてサボってんだよ!」

「名前ちゃん!?ちょっと、錫也ズルいよ」


東月くんの幼なじみについて話を聞いていたら、入り口から顔を覗かせた人が大声で呼び掛けてきた。そのうちの1人は夜久さんだったので、手を振った。


「あれ、お前どっかで見たことある顔だな…」

「哉太、そんなじろじろ見たら失礼だろ。忘れたのか?宮地の待ち受けにいた」

「あ、お前が幼なじみか!」


夜久さんが隣まで来て、東月くんともう1人の男の子が夜久さんの幼なじみだと教えてくれた。これでお互いの関係がハッキリした。一言も話したことのない銀髪の男の子に会釈をすると、相手も気まずそうに返してくれた。

夜久さんはあと10分くらいで上がりだそうなので、中で紅茶とケーキを貰いながら待つ事にした。中は高校生とは思えないクオリティだった。ましてや私の学校のように料理を専門としていないにも関わらずこの完成度だ。
流石有名私立は違う。



紅茶とケーキをゆっくりと食べ終えた頃、ごめんねと夜久さんが駆け寄ってきた。前々から言っていた対談が実現するのである。

連れて来られたのは、資料が沢山置かれた準備室らしき部屋。ここしか静かな所がなくて、と夜久さんが申し訳なさそうに言った。


「さてと…宮地くんが名前ちゃんについてなんて言っていたかが聞きたいんだったよね?」


私は首を縦に振る。夜久さんは細くて長い足を伸ばしながら少し上を向き、話しだした。


「哉太がね、たまたま宮地くんの携帯を見て名前ちゃんの事を聞き出したっていうのは錫也が話したよね。宮地くんは名前ちゃんの事、『俺の幼なじみだ。単なる御近所だけかもしれないが、俺の全てを唯一受け入れてくれる。俺はどんな高級なお菓子よりも名前が作るお菓子が好きだ。』って話していたよ。その時の宮地くん、今まで見たことないくらい、優しい表情をしていたな。だから宮地くんは名前ちゃんが思っている以上に、名前ちゃんのことを大切だと思っているんじゃないかな?」


夜久さんが『ね?』と首を傾げると同時に、涙が零れた。ただ目から水が落ちているだけの涙。しゃくりが上がるわけでもなく、私はただ涙を落とした。

そんなの、私もなんだよ。私だって龍之介が大切なんだよ。
龍之介が嬉しそうにするから、美味しいって言うから、私はお菓子を作るんだ。高級なスイーツに適うわけないじゃんか。
…そんなこと言うから、益々好きになる。


私の足の上に置かれた鞄に、涙の跡が点々と残る。そんな話を夜久さんとした。







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