crying cat | ナノ


私には幼なじみがいる。

無口で、無愛想で、堅物で、自分にも他人にも厳しいちょっと暑苦しい奴。昔からサボり魔の私は幼なじみにしょっちゅう怒られていた。正直暑苦しい。


「いらっしゃいま…あ、龍之介!また食べに来たの」

「ああ、部活帰りなんだが、体力使った分食べたくなってな」

「夕飯時間なのにいいの?あ、席こっちね」


そんな幼なじみなんだけど、無愛想な見た目にそぐわない大の甘い物好き。私がバイトしているお店がお気に入りらしく、週に少なくとも3回は来ている。お陰様で店の従業員にも店長にも厨房の人にまで顔を覚えられた。
水とおしぼりを持ちに裏に回るとバイト仲間がわらわらと集まってきた。


「なになにー、名前の幼なじみくん今日も来てんじゃん」

「昨日も食べに来てくれたのにね。やっぱカッコいいわ…あんたの幼なじみとか勿体ない」

「私に頂戴よ」

「あれのどこがいいのよ、無愛想だしすごい暑苦しいよ?」

「いや、宮地くんはギャップという女の子のツボの塊だからね、その良さが分からない名前は損をしている。と言う訳で、これは私が持っていく。」

「あっ、ズルい!」


バイト仲間が水とおしぼりを乗せたお盆を取り上げ、龍之介の席へ向かった。出遅れたもう1人のバイト仲間が落ち込んでいる。そこまで相手をしたかったのか。取り敢えず肩を叩いて励ましておいた。

堅物龍之介は無愛想で眉間に皺が寄っているくせにモテる。一般的にイケメンの部類らしい。私はいつも一緒にいるせいでイケメンだなんて思った事は無かった。
あぁでも確かにバレンタインとか誕生日はたくさんお菓子貰ってたな…。本人かなり喜ぶし。そう思うと龍之介はかなりモテている。あんな無愛想なのに。もうちょい愛想良ければもっとモテるだろうに、と呟いたら落ち込んでいたバイト仲間がその無愛想とお菓子を食べている時のギャップがいいんだって、とまたギャップを押されてしまった。女の子はギャップに弱いらしい。

ドアのベルがお客様を知らせる。手が空いている私は接客へ表へ出た。笑顔を作り、席へのご案内。
今日もうまい堂は繁盛しています。


「ありがとう、今日も美味かった。サービスしてもらったしな」

「あはは、店長でしょ?もう帰るの?なら裏口ちょっと回ってくれない」

「分かった」


レジをカタカタ打っていたら龍之介が並んできた。どうやら今日はもう帰るらしい。伝票を見ながら打ち込んで精算をする。今日パフェ食べたのか。これ好きだよね。なんて余計な事を考える。他のお客様は何を食べたなんて気にしないのに。お釣りが無いようにきっちり払ってくれたお陰で楽に済んだお会計後、龍之介は店を出た。
龍之介に裏口に回るよう言っちゃったから早めにレジ終わらせようと見たら、お会計待ちの列。しまった、これでは直ぐに行けない。

取り敢えず待たせてごめん、龍之介。
心の中でそっと謝った。









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