crying cat | ナノ


クラスの協力のお陰で龍之介と文化祭回れて、十分すぎるくらいいい思い出になった。でももう1つ欲を出すなら、後夜祭までいてほしい。ただの我が儘でしかないけど、そんな願いがあった。出来るだけ長くいてほしいという願い単純な思い。

クレープを食べる龍之介の横で貰ったぬいぐるみを手にしながら考えていた。どうやって龍之介を誘うかと。一緒に回ること、そもそも文化祭自体誘えたのはクラスメイトの協力があってできたことだ。本当に自分から誘ったことは無い。つくづく小心者だと思う。
みんなに頼ってばかりではなく、自分から頑張らないと駄目だ。ぬいぐるみを強く握る。
分かってるんだ、自分から向き合わなければいけないことも。分かってる。でも、今のこの間隔を保っていたい。離れてしまうくらいなら近付かなくていい。そう思ってしまう。一歩が踏み出せない。



「どうした、名前」


気付けば歩いていた足を止めていて、少し先で龍之介が振り返っていた。何でもないって言わないと。そう思ったが、先に出てきたのは足だった。

私は大きく足を踏み出し、龍之介の前まで歩み寄る。そして彼の服を掴んだ。
無意識な行動だった。気付けば目の前だったという感じ。何でこんな行動を取ったんだ。自分でも訳が分からなくて、下を俯くしか無かった。

もう一度私の名前が呼ばれる。その声はどこか上ずって聞こえたが、私にはそこまで意識が回る余裕がない。
一言だけ、後夜祭までいてって言えばいいだけ。なのになんで音の持たない空気しか出てこないの?片手に握っている服ともう片方に抱いているぬいぐるみが皺になりそうなくらい力が籠もっていた。
私自身の口から、言わないと



「りゅ…のすけ、あのさ」

「名字さん」

「え?」


やっと名前が出てきた、そう思った瞬間だった。勇気を振り絞って出てきた私の声は、第三者によって遮られた。私の後ろから聞こえてきた声はあまり聞き覚えの無い声。龍之介の表情を伺うと眉間の皺が深く刻まれていた。あまりに険しい表情に私が凄んでしまった。

声の方を見ると、そこには男子生徒が立っていた。確か橋本くん。前にアドレス交換した人だ。
何故橋本くんが声を掛けてきたんだろう。私は唖然としたまま脳を働かせていた。
橋本くんとはメールをするくらいだ。それもいつも向こうからくるばかり。そこまで仲が良いとは思えないけど、なんで?そう思ってたら橋本くんがニッコリと愛想のいい笑みを浮かべて口を開いた。


「後夜祭、一緒に過ごさない?」






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