crying cat | ナノ


美味しい?
そう机の下でエプロンを弄ばせながら言う。龍之介は一瞬きょとんとした後、目を細めてあぁ、と頷いてくれた。
笑ってくれた。言葉の数が少なくてもその表情だけで私の心が踊る。
若干気まずい雰囲気はある。きっと私の慣れない服と、逆に改まってしまう周りの楽しそうな声。でも龍之介はぽつりぽつりと感想をくれた。私は緩む口元を押さえながら顔を上げて頷いた。嬉しさいっぱいで胸が締め付けられるような感じだ。

会話が少なく、コトリと置かれたスプーンの音で龍之介の顔を見ると、ごちそうさまの一言をくれた。御粗末様です、と笑えるようになったのはちょっと私の調子が戻った証拠。龍之介もいつも通りになってきたのか首を傾げて呟いた。


「さっきから視線が気になるのは俺だけか?」

「…ごめん」


謝ると何故お前が謝るんだと聞かれるが、私のせいだとは口にできない。曖昧に濁しておく。

分かってる!クラスメイト兼バイト仲間や学級委員の視線にそう言いたい。龍之介を誘えばいいんでしょ、知ってるよ。チクチク無言で刺してくるのはやめてほしい、本気で。
この後の文化祭は丸々休みを与えられている。これをどう利用しなければいけないなんて知ってる。私も龍之介と回りたいとは思うよ、そりゃ。でも一緒に回ることなんて約束していない。今言いだすしかないんだ。
心臓が煩く鳴り響き、手汗が滲む。言わなきゃ、いけない。言わないと…


「あのさっ…」

「む、どうした?声裏返ってるが」


あぁあ、恥ずかしい。龍之介にそんなとこまでを指摘されるとは。私は泣きたい気持ちになった。


「私さ、この後ずっと休みなんだよね…」

「…そうか」

「そ、その…文化祭、いっ…しょに回らない?案内するし…」


なんでこんな一言に照れなきゃいけないんだ!どこからか周りの人が拳が握られたのが分かった。こんな野次馬のせいで…。
あとなんで龍之介はすぐに返事をくれないんだ!黙りこくられた私は心の中で八つ当たりしながら顔を上げると、前髪をくしゃりと握り、斜め下を見る龍之介がいた。
え、なにその反応。思わず口が半開きになった。


「も、勿論構わないが…」

「…なんで龍之介が照れてるのよ」

「なっ、照れてない!大体名前がハッキリ言わぬから」

「人のせいにしないでよ、あぁもう!それなら早く出よう、耐えられない」


私は勢い良く椅子を引くと先にクラスメイト達が視線を送り続けるテントを出た。
なんで変な意地を張ったんだ。私は頭を抱えたくなる。
でも取り敢えず最低私が言わねばならないことをやりきれたと思う。心のどこかで緊張の糸がぷつりと切れた。あとはいつもみたいに話しながら龍之介と楽しく過ごせればいい。私は手汗の引いた手の平を広げ、眺めた。
空気に耐えられなかったけど、みんなのおかげだとは思ってる。あとからお礼言わないと、ね。





「…名前のあんなデレは初めて見たわ」

「宮地くんもなかなかだとは思うけど名前もクーデレね」

「お互いどこまでデレるかが勝負所よ」

「…本当、愛されてるわね、名前」






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