crying cat | ナノ


先生の目に付かない階段の踊り場でメール画面を開く。放課後だから怒られはしないだろうけど、こんな文化祭モードで携帯と睨めっこしてるの知られたら変に思われる。
電話帳から龍之介の名前を出して深呼吸。電話や直接会って話すときっと緊張で言いたい事が全部言えないかもしれないから、メールでゆっくり文章を考える。一文字一文字、思いを込めてゆっくり打つ。お互い絵文字も顔文字も使わないから淡々とした文面なんだけど、その方が気持ちがストレートに伝わると信じている。
内容は至ってシンプル。この前逃げたことの謝罪、文化祭に来てほしいこと、裏方でも私なりに役割を精一杯やりきること、そして…


『私が作ったパフェ、食べてほしい。』


お客さんとしてじゃなくて幼なじみの宮地龍之介として、私が作ったパフェを食べてほしかった。誰よりも喜んでもらえるように考えたメニューだから。特別な思いを込めたパフェだから、食べてほしい。

その一文にそれだけの気持ちを託し、私は窓に携帯を向けた。思いが伝わりますように。祈りながら送信ボタンを押した。



「おっかえりー。宮地くんにメールしたの?」

「なんであんたはそう龍之介に繋げるかな」

「だって面白いじゃん」


教室に戻りメニューリスト作成に再び取り掛かろうとすると、バイト仲間兼クラスメイトがニヤついた表情で話し掛けてきた。もうその表情でなんの話か分かるくらい、彼女は分かりやすい。文化祭に誘ったと言えば背中をバシバシ叩いてくる。何なんだ一体、つか痛い。

ふと携帯を開いてみた。龍之介からの返信はまだ来ない。今日は部活なんだろうか。答えが気になるメールは返信が待ち遠しくて、時間の1分1秒が長く感じたりする。ただ期待を胸に踊らせていた。

バイトが無い今日は、文化祭準備を終えて帰宅した。部屋で雑誌を広げながら携帯の受信ボックスを確認する。返信はまだ無い。早く欲しかったのに。
龍之介のバーカ。小さく呟いた言葉がやけに虚しかった。その日はそんな調子で眠りについた。


次の日、目を覚まして携帯に目を向けるとメールの受信を知らせるランプが点灯しているのが目に入った。それで一気に頭が覚醒した私は携帯を手にした。これで龍之介じゃなかったら絶対今度会った時に八つ当たってやる。相手の都合は分かっていても焦る気持ち。緊張しながら開いた受信ボックスにはメールが1件、龍之介からだった。


『勿論、行かせてもらおう。直接頑張っている姿は見えないが、お前のパフェを期待している。』


メールの文面からも伝わる龍之介の堅苦しさ。なのにこんなに嬉しいなんて。柄にもなくガッツポーズを取ると、スキップしたくなる気分で学校に行く支度を始めた。






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