08 「ん?なぁ琥太郎先生、人がいるのか?なんか足が見える」 「あぁ、なんか不知火が拾ってきた。」 チビがこっちまで来て、突然顔を覗き込んで来た。あぁ、よくよく見たらこの顔も見たことがある。そんなことをぼんやり思った。 「そいつ、今度星詠み科に編入する奴だ」 「あぁ!噂の編入生ってこいつか。すごい力がある奴なんだってな」 何故か嬉しそうに肩を叩いてくるチビ。すごい力って何?私は星詠みの能力なんて持っていない。だから、そんなでたらめ言うな。 チビの手を払い除け、身体を起こした。チビは驚いたようにこっちを見る。 星に興味なんて無い。そもそも自分が住んでいた所では見えなかったから。だからこの学園に入学する理由が無い。仮に、私に星詠みなんて力が備わっても必要無い。 どんな特別な待遇も、力もいらない。欲しいのは、自分の世界へ帰る帰り道。以前の平凡で幸せな生活だ。 ここに居ると自分を見失いそうになる。吐き気がする。いち早く出ようと立ち上がる。捻った足が悲鳴を上げるも関係無い。それよりもこの部屋を、学園を出たい。 「名字、だいじょ…」 「ネクタイとハンカチ、あの銀髪に返しておいてください。それと治療ありがとうございました、それでは。」 チビの横を擦り抜け、ストールの言葉を遮りネクタイとハンカチを胸に押し付けた。今後一切、あいつに関わる気は無い。驚いた表情を浮かべる2人を置いて保健室を出た。 来た道を引き返す。擦れ違う生徒がそれぞれ私を振り返る。視線は痛いが、そんなの関係無い。不自然な歩き方を少しでも隠すように胸を張って歩く。 前方からまた生徒4人。でも少し違う。真ん中の子に目が少し行った。この世界で初めて見た女の子の存在。あぁ、あれが主人公。愛される、この物語の中心人物。 擦れ違う瞬間、敢えて目を合わせなかった。ふわりと向こうが振り返り髪が揺れたのが視界の端に写った。 「月子、どうしたんだよ?」 「あの女の子…」 「お客さんか何かじゃないかな」 「…うん、そうだね。」 歩きに歩いて辿り着いたのは私が目を覚ました場所。近くの木にもたれかかり休憩をした。捻った足で歩くのは思ったよりも体力と時間を使うもので脂汗が滲む。しばらく休まないと歩けない。そう思い、影に座り込んだ。 吹く風が心地好い。目を閉じて休憩していると、誰かが近付くのが分かった。この学園の生徒か先生、どっちに見付かっても面倒だ。見付からないように移動しようと目を開けたら、人が目の前に来て立っていたらしく、黒いズボンが見えた。 遅かったか、もうどうにでもなれ。相手の発言を待つが、なかなか話さない。なんだ?私はズボンの上を辿るように視線を上げた。 そこに立っていたのは、明るい髪と紅い目を持つ、無表情な生徒だった。 ← |