49 ある日、授業の途中なのに一樹が突然立ち上がるという出来事があった。 「どうした、不知火?具合でも悪いのか」 「いや…急にすみません。授業続けてください。」 立ち上がった理由はよく分からないまま、授業が再開された。私もそこまで気にしなかった。 私の授業に対する態度は残念ながら模範生とは程遠い。最低限黒板の内容を書き写したり、提出物の作成。暇でどうでもいい話なんかは睡眠時間となっている。 一樹が立ち上がった後も、私はいつも通りシャーペンを握りながら半分意識を飛ばしていた。 そこに映り込んだ映像。何処かは分からない。ただ… 「…っ!?」 「おー、名字どうした?不知火といい、名字といい。今日は落ち着きないな」 冗談じゃない。落ち着いてられるか。 どこかの倉庫から…血が流れる映像が見えるだなんて。いつから私はサスペンスまがいな世界に来たって言うんだ。 いつまでも座らない私に声を掛ける先生。どうする、どうすれば… 気付けば言っていた。調子が悪いので、保健室に行かせてくださいと。そして一樹の腕を引っ掴み、廊下を走っていた。 流石の一樹も驚いた表情をしていたが、何か察したらしい。 「お前も視えたのか?誉が…」 「いや、私は時間と場所だけ」 その言葉から、金久保に何かが起きるということが分かった。『誰に』『何が』の部分が見えてなかった私の中で話が繋がりだす。一樹の顔色が青いのは気のせいではないだろう。私もどういう状況かは分からない映像とはいえ、血が流れる惨状を見たくもない。 時間と場所をまくし立てるように聞く一樹に舌打ちをする。そんな必死に聞かれても、私の脳内は今現在視せているのだから答えられない。 脳内の景色と照らし合わせながら外に飛び出す。グラウンドでは、どこかの学年が体育をやっていた。 「…体育器具庫。時間は14時53分」 視えた。読み上げるように言えば、一樹が舌打ちした。現在、14時51分。 体育集団の横を通り過ぎる際、先生に呼び止められた。私達は授業をサボっている。当然だ。 それすら聞き流して走るしかなかった。 目的地である器具庫が見えた。運動不足な私の体力と息なんて、とうに切れている。それなのにどこから出てくるのか分からない力に引かれ、更に足を早めた。 開放されている扉から見えたのは、暗闇でも目立つ髪色。そしてその背後から襲い掛かるように倒れる鉄の塊。 「誉っ!!」 叫ばれた名前に振り返る金久保と、その周囲の景色は止まることなく流れる。こういう時、スローモーションに見えるなんてよく言うけど、絶対嘘だ。憎らしい程早く、時間が過ぎた。 ほんの2、3秒後。 その場に響いたのは大きく、冷たく響く金属音だった。 ← |