Monochro Campus | ナノ


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あいつは、いつか昼寝を妨害してきた奴だ。それも自分には最悪な言葉で。だからなんだと言えば何も無いが、私はその時の記憶を思い出し苛立った。

序でに蓋を無理矢理閉めていた感情が顔を覗かせた。元の世界に帰りたい。ここでの自分の存在を拒否したい。
噛んだ唇から鉄の味が広がる。力を入れすぎて唇が切れた。
そんな私に一樹は名前を呼んできた。今話す気分じゃないから話さないけど。自分の中で不快感が爆発して舌打ちが漏れた。
その音で私の方を向いたのは、金久保と話していた男子生徒だった。


「あ…お前」

「あれ、宮地くんいつの間に名前ちゃんと知り合いだったの?」


男子生徒は曖昧に頷くと、私の方に向き直る。何でこっち向くんだよ。そう思っていると勢い良く腰を折って頭を下げ、大きな声で言い出した。


「以前は先輩がこの学校の生徒だと知らず、失礼な事を言ってしまいスミマセンでした!」



…いかにも体育会系な謝罪である。と言うか、声のボリュームを落としてほしい。何事だと私達に周りの目が集まる。勘弁してくれ。
謝られたのに、何故か不快感しか残らないこのやり取り。私の中では名前も知らない男子生徒の評価はどん底に落ちていた。

肘で突かれ変態に何事だと聞かれるが、無視する。
顔を上げた男子生徒は眉間に皺が寄った表情で、しかしと続けた。あそこで寝るのは女子としてはしたないと言うが、人の昼寝場所に文句わ付けないでほしい。どこで寝ようが私の勝手というのが持論。
このままだと話にならないと思い、私はその場を立ち去った。後に一樹からあの男子生徒の名前を聞いたが、覚える気はどこにも無かった。
寧ろ出来れば会いたくない。


教室に戻った私は机に伏せて寝る体勢になる。最悪だ、一樹に捕まるんじゃなかった。さっきの一連の出来事に舌打ちをした。メロンパンなんてどうでも良くなった。

私の存在価値は、理由はなんだ。帰るべき場所は何処なんだろうか。
無限ループな考えが蘇る。思ったより弱いとこあるな、自分。心が落ち着く場所を見付けられない。
一樹が前の席に座る音と気配がした。しかし今日は何も言わず、ただ買ったパンの袋を開ける音だけ煩い教室にひっそりと鳴らすだけ。


「馬が合わない奴もいるよな」


不意に、一樹が独り言のような言う。一樹がそう言うのが意外で、私にしては珍しく素直に頷いた。


「まぁ、あいつはあぁ見えて悪い奴じゃないぜ。部長の誉が言うんだ。あんまり露骨に避けたりするなよ」


雰囲気で一樹が笑うのが分かった。よく分からないけど、一樹にもそんな人がいるような口振りで、心に靄が掛かる感じがした。

多分、しばらくは情緒不安定から抜け出せない。


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