Monochro Campus | ナノ


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「…はぁ」

「ため息をつくな、こっちがつきたいんだ。」


そう言いながら相手は私の腕に包帯を巻いていく。鼻につく消毒の匂いが不快だった。

今、私は保健室で治療を受けている。理由は簡単、体育館倉庫で置いてあった器具の雪崩に巻き込まれたからだ。
大した事はないけど、棚に積まれていたミニハードルが頭に命中したせいで出血沙汰になった。勿論、脳内出血ではないので救急車は呼ばなくても済んだ。
おまけに転んだ際にどこかで腕を打ち付けたらしい、血がカッターシャツに滲んだ。あー…これはさっさと染み抜きしないと。めんどくさ…。

本当は治療は必要無いし、わざわざ保健室行くのが面倒だったんだけど、教室に戻る途中にチビの先生に見付かり連行されてしまった。そりゃ、頭から血を流してたから騒ぐのは分かるけど、ギャンギャン吠えないでほしい。余計頭が痛くなる。



「で、どうしてこうなったんだ?」

「椅子から落ちた」

「さらっと嘘をつくな。体育館前で直獅と会ったんだろう?」

「想像つくなら聞くなよ」


舌打ちをすると今度は星月先生がため息をつく。女の子が舌打ちするなと言われる。前にもそんなこと言われたな、なんてぼんやり考えた。思えばこの人、舌打ちされても苛ついた表情1つしない。図太いのか、寛大なのか。どうでもいいけど。

治療が終わったのか、星月先生は何か書き出した。大方怪我した生徒の記録的なものだろう。もう私には用は無いと判断して立ち上がる。
気配を察したのか、星月先生はお大事にと社交辞令の言葉を掛けた。適当に返事してドアを開けると、何かがあった。


「どうした、勢いよくドア閉めて。頼むから壊さないでくれ」


何かズレた返答だ。
星月先生の言葉を流しながらもう一度開けたドアは、さっき開けた時と変わってなかった。


「名前」

「……………」

「お前、この怪我どうした」


開けた先には一樹が仁王立ちしていた。優しく包帯に触れる手とは逆に冷たい声。つか触るな、傷口に触れて痛い。
私は椅子から落ちたとさっき星月先生にも言ったセリフを返した。一樹は眉を潜める。信じてない顔だ。

別にそんなのはどうでもいいし、反論するのも怠い。口から漏れた欠伸を噛み殺しながら私は一樹の前を通り過ぎた。珍しく捕まらなかった手首がやけに軽く感じた。

けれど、そんなわけにはいかなかった。
名前を呼ばれて渋々一樹の方に首を向けると、ちょっと来いと言われた。そして私が向かう方と逆に歩きだす。
あぁ、結局こうなるのか。
手首が捕まれてようが捕まれてなかろうが、大して問題じゃなかった。


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