42 不知火は私の頭から手を離し、一歩下がる。そこから顔を覗かせるのは夜久さんだった。忘れていたけど彼女も来ていたのだ。 つい先程、私は彼女を拒絶した。そんな夜久さんがわたしに何の用だ。私には見当もつかない。 夜久さんは不知火の後ろから出て、私の前に立つ。真っ直ぐな視線に思わず一歩下がる。 何を言うんだ、そう思えば私の前に手が出された。 「名前先輩、一緒に星を見ませんか?」 掛けられたのはさっきと同じ言葉。思わずなんで聞き返した。 「だって名前先輩、本当は悪い人じゃないんですよね?」 「手を払われて、何を根拠に…」 「だって、名前先輩は本当に嫌だったら払う前に無視すると思います。」 間違って無かった。何故彼女が会って間もない私の事が分かったかは分からない。 本当なら今頃夜久さんは私なんかじゃなくて、他の誰かと星空を見ていたはずだ。こうして時間を無駄にしていなかったはずだ。それは不知火も同じ。 私が与えた悪影響だ。そう思いながらも、心のどこかで安心しているようだった。私はちゃんとここに存在していたんだって、そんな気持ちに襲われた。 不知火を見ると、ニヤニヤしながらこっちを見るだけ。助け船は出さないのかよ。 私はため息をついて反対の手を出す。 「勝手にしてください」 握手するように握られた。夜久さんは嬉しそうに笑う。サラサラな髪の毛がふわりと宙を舞った。 それからはあまりに目まぐるしく景色が変わって覚えていない。微かに残る記憶は、屋上庭園の扉の前で入ろうとしない私の手を掴んで夜久さんが強制突破したこと。こいつも不知火と同じタイプかよと思った。あとは星を指差し説明をくれる夜久さんと、心配と批判の目を向ける周囲。嬉しそうに笑う不知火の笑顔だけ、頭の中に残っている。 いつか不知火に連れてこられた星空を思い出す。今日夜久さんと見た空も、あの時と同じ綺麗な星空だった。星に興味ないなんて嘘になるかもしれない。目に分かる程変化があるわけでもないのに。でも一晩見ていられる、そんな気がした。 ベッドの上で寝返りを打つ。携帯は開きっぱなしで転がっている。なんであいつが私のアドレスを知っているかなんてこの際どうでもいい。 『今度別の星を見せてやるよ』 「…馬鹿じゃないの?」 ← |