Monochro Campus | ナノ


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「ちょっと待て名字、どこに行くつもりだ」


階段の途中、腕を掴まれ引き止められた。腕の先を辿るように見れば、不思議そうに私を見ている星月先生。帰る、そう呟けば少し困ったような表情を浮かべた。なんでだ、言わないが顔はそう言いたげだった。分かってはいたが、口にはしない。
なにが楽しくてあそこにいなきゃならないんだ。そもそも、明日から学校に行く気がしない。あそこで、大勢の前であんな態度を取ったんだ。ただでさえ居心地悪かったが、状況は最早最悪と言える。
…というか、あの夢から元の世界へ帰る事が出来なくなった今、ここで生きていく理由はない。自殺願望ではなく、頑張って何かをする必要を感じれなくなったということ。大袈裟に言えば、生きる目標が無い。
私は本当、何に巻き込まれたんだ。何にもない、平凡な日々が懐かしくて恋しい。変わらない毎日が明るくて、カラフルだった。

星月先生の手がが私の腕から離されると、私は無言で階段を降りた。
1人で歩く廊下は真っ暗だ。一面黒く、私の中もこんな感じだろうと思った。鞄を握り直し、ポケットに入っていた飴を口に放り込む。…甘くない。何も満たしてくれなかった飴に歯を立てた。

外は白い街灯と、黒い暗闇に覆われている。新月なのか、月が無い今日は星が綺麗に瞬いている。あの屋上ではそれを楽しそうに見ているのだろう。ため息を吐くと、私はまた足を進めた。
気付くと校門まで来ていた。編入して数週間過ごした校舎を見上げる。…帰りたい。そう思いながらまた背を向ける。ここを出たら、私は


「名前!」


校門を出ようと踏み出すと、走る足音が聞こえ、名前を大声で呼ばれた。思わず振り返ると不知火が走って来ている。何となくそれは予測できていた。しかし、予想外だったのは夜久さんまで着いてきていることだ。
なんで彼女がいるんだろう。さっき私が拒絶したのをわざわざ非難しに来たのか?他人事のように考えていたら、あっという間に私との距離を詰めた不知火が私の肩を掴んだ。


「お前どこに行くつもりだ」

「…別に」

「そのまま戻って来ないつもりか?」


肩を掴んでいる不知火の手に力が加わる。真っ直ぐ見つめる視線が痛い。
多分、星詠みで視えたのだろう。だからといって私の意志を変えるつもりは無かった。他人なんてどうでもいいし、人にどう思われても気にすることは無いが、吐き気がする程居心地が悪いここにもう来るつもりは無い。
いつか星月先生に聞かれた。この学園が嫌いかって。多分学園じゃない、嫌いなのは。本当は、害を及ぼす自分の存在が嫌いなんだ。
俯いたまま、脳内ではそんな考えが巡っていた。


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