03 今の間に逃げてやろうと思ったけど、酷く痛む足と出口の方向が分からないせいで歩く気が失せた。 銀髪が来るまで状況の整理をしよう。まずここが何処か、あの銀髪が誰かは記憶に引っ掛かる程度。無理に思い出せないならそのうち思い出せばいい。今の自分の格好は黒いオーバーオールにTシャツ、上に羽織っているのはパーカー。出掛けた時の格好。斜めに掛けていたバックに入っている物の中身は買い物に持ってきた物と同じ。財布、定期、携帯、手帳、iPod、お菓子を詰め込んだポーチ。意識が無くなる前と同じ。となると、おかしいのは周りの状況。取り敢えずあの銀髪から解放されたら誰かに連絡して迎えに来てもらおう。 「逃げなかったな。よし、足出せ。ハンカチ濡らしてきてやったから冷やすぞ。」 戻ってきた銀髪は足を出せと言ったくせに自分から私の足を持ち上げ、ハンカチを当てた。ひやりと冷たいハンカチが裸足に触れ、ぞっとなった。 「しまった、何か固定するもの探すの忘れたな…。まぁこれでいいか」 銀髪は首元に手をやると、青色のネクタイをしゅるりと解いた。まさかと思うけど…。私が困惑していると銀髪は解いたネクタイを足に巻こうとする。 慌てて止めるといいんだよ、と笑って見せた。でもそんなの良くない。ハンカチのせいで濡れるし、足に巻き付けたら皺になるだろう。足を引いて止めようとしたら動くな、と強い力で足を止められた。 無言で応急措置をしていく銀髪。早く帰りたい私はもうこの人相手に何をしても無駄だと抵抗を止めた。 そうしてしばらく、手当てが終わったらしい。早く帰りたいと呟いた瞬間、お腹に何かが当たり、ぐぇっと蛙のような声が出た。何だと思えば少し高い景色。顎の下には黒い布。これは… 「俵担ぎかよ…」 「なんだよ、お姫様抱っこが良かったか?」 「普通に歩かせろ」 「俺が怪我人にそんな事させると?」 「この…横暴銀髪野郎」 「そうだ、俺は横暴なんだよって、いてっ、蹴るなよ!」 何を開き直ってんだ、この銀髪。あんまりにもムカつくから動く左足で蹴った。鳩尾に足が入ったのかむせる銀髪。ざまあみろと言ったら言葉遣いが荒いとお尻をポンと触られた。 「こっ…の、セクハラ銀髪野郎!!」 「いってぇ!暴れんなよ、落ちるぞ。だいたいちょっと叩いただけだろ」 「ふざけるな!」 こうして私はどこかへ連行された。 ← |