Monochro Campus | ナノ


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「…………………」

一体なんなんだ。
私は目の前の満面の笑顔に口元を引きつらせた。相手は全く気付く様子は無い。頬の筋肉が痙攣するようにまた引きつった。座るベンチ変えてもいいかな…。そう思うが、真ん前に立たれているせいで逃げようが無い。一体何なんだ、この子。

私はある日の昼休み、不知火の追っ手から逃げこんだ屋上庭園で昼寝をしようとした。その時、誰かが屋上庭園に入って来た。昼休みという自由時間だから、場所が被るのは仕方ない。ここは広いし、気にする必要は無いだろう。そう思うと入って来た足音は私の元へやってきた。
そうして出来上がったのが今の状況。


「確か…や、や…や」

「夜久月子です」

「あぁ、夜久さん。私に何の用事ですか?」


先輩なので敬語いりませんよ、と彼女は笑って言った。

いつかと同じ、腹の底から何かがぞわりと込み上げてくる。この感覚が一体何かは分からない。脂汗が湧き出て頬を伝う。多分、私はこの子を苦手としている。


「私、一度名前先輩と2人でゆっくりお話したかったんです。この前はできませんでしたし」


私は別にしたくない。そう言うわけにはいかず、曖昧にありがとうと言う。私なんかと何を話すんだ。そんな疑問を抱えながら何気なく視線を夜久さんから逸らした。

夜久さんは私の隣に座り、話しだした。何を話しだしたかと言えば私に質問責め。どこから転校しただとか、今まではどんな生活だったとか、好きな食べ物や芸能人までに発展した。自分の事を話すのは、あまり好きでない。ましてや自分が苦手だと感じる相手。私は答えを濁し、その場しのぎをした。
名前先輩は落ち着いていますねなんて言われた。当然だ、実年齢より精神年齢が上回っているんだから。そして変な経験をしたからか、ちょっとやそっとじゃ驚けなくなった。前々から肝が座っているとは言われていたが、最早これはふてぶてしい域だろう。夜久さんの言葉にはよく言われますなんて言っておいた。

夜久さんが次の話題に移ろうとした時、屋上庭園の扉が開いた。


「おっ、羊、錫也ー!月子居たぜ」

「あ、哉太。錫也と羊くんまで、私を探してたの?」

「だって月子、今日は僕と2人でお昼食べようって約束したのにいなくなるんだもん。すっごく探したよ」

「おまっ、なに勝手に2人きりで食べようとしてんだ!」

「何、悪いの?」

「当たり前だ!!俺らも一緒に食うっつーの」

「まぁまぁ、2人共そこまで」


いきなり現れたと思ったら、目の前で喧嘩し出す2人と止める1人。展開の早さに着いていけず呆然としていると、夜久さんはあれは幼なじみ達だと紹介してくれた。そして言い争いを微笑ましそうに眺めていた。


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