33 『それ』が視えたのは授業中だった。ただノートを書いて、外を眺めている退屈な時だった。 何となく脳裏を過った光景がやたらリアルで、どうするべきか迷った。他人なんてどうでもいい。名前も知らない奴がどうなろうと知ったことじゃない。私はシャーペンをくるりと回した。 放課後、私は階段に座ってオレンジジュースを飲んでいた。特に何を見るわけでなくボーッとしていた。その時、目の前に赤い物体が通り過ぎた。…なにあれ。唖然としていると誰かが階段を上って行った。座っていたから足しか見えなかったけど、裸足だった。私は一瞬、サボり魔のストールを思い出したがあれは仮にも教師だ。後ろを振り向けば、少し上の踊り場にやたら背が高い男子生徒がいた。そして追い掛けているのは…クマのぬいぐるみ?あまりにも謎過ぎて呆気に取られたが、すぐに私も後を追った。 「ぬっはは、今日は調子が良さそうだぞ」 「ちょっと、それ」 「ぬ?なに」 「その変な機械、今すぐ止めろ」 「なんでなのだ。嫌だ」 「今すぐ止めろ」 「いーやーだー、なんなんだお前」 めんどくさい。私は舌打ちをした。男子生徒は機械のコントローラを死守するように抱き抱えている。話が分からない奴は嫌いだ。 その場をくるくる回るように飛ぶクマのぬいぐるみ。もう帰ろうかと思った時、クマのぬいぐるみが急旋回をした。 「ぬ…?おかしいぞ、コントロールが効かない…」 「馬鹿、避けろ!」 言葉よりも思考よりも行動が先だった。 男子生徒を押し倒し、その頭を抱えると爆発音と煙が広がった。ついでに腕には恐らくクマのぬいぐるみの残骸がぶつかる感触。顔を上げて立ち上がると周辺は焦げた匂いに包まれ、無惨な状態だった。 男子生徒は何が起きたのか分からないような顔をしていたが、すぐに爆発したクマの存在に気付き奇声を上げていた。あの様子なら怪我はないだろう。バタバタとこちらに近付く足音を耳に、私は踵を返した。 私は自分自身の変化を感じていた。夢の後から現われだした変化。 『…あんたは、必要な力を持っている』 『今は潜在能力として隠れているけど、もうすぐ大きな力として現れる。あんたがこの学園に呼ばれた理由が分かる。』 いつか言われた事が再び蘇る。 これは本当に必要な力なのか。宙ぶらりんな私の存在を位置付けるものなのか。考えても自分の中では答えが導き出せない。 弧を描くように投げられたオレンジジュースのパックは迷いもなくゴミ箱の中へと消えていった。 ← |