32 「それで本当に良かったのか?」 「もう何でもいいだろ…」 「じゃあ、俺とお揃いに」 「それは却下」 ショップを出ると聞かれた。色々話し合って、紹介された中で一番シンプルな携帯を選んだ。途中、不知火が一緒の機種にするかと言われたがそれだけは勘弁。避けるように新しい携帯を鞄にしまうと何故か不知火は驚いた顔をした。 「え、なんで鞄にしまうんだよ」 「なにがだ」 「俺にアドレスと番号教えてくれねぇのかよ!」 なんでお前に教える必要がある。 バスに揺られながら窓の外を眺めた。映りゆく景色は穏やかなオレンジ色。さっきまで沢山あったビルはいつの間にか無くなり、代わりに植物が増えた。 そんな景色を見ていたら肩が重たくなった。その方に首を向けるとオレンジ色に照らされた明るい髪が目に入る。 …こいつ、寝たのか。ため息を吐いて顔を覗き込めば、本当に寝ているらしく、寝息を立てていた。人を振り回しておいて、こいつは…。気持ち良さそうに寝ているのかまた腹立つ。寝顔を見ながら3つ数える。1、2、3… 「ってぇぇぇ!何すんだよ名前!!せっかく気持ち良く寝ていたのに」 「バス車内ではお静かに」 たっぷり3つ数えてから不知火の頭にチョップを入れた。なかなかいい音がして、不知火は飛び起きた。変な注目を集めてこっちが恥ずかしい。他人のふりも隣の席では大して効果ないし。 あぁ、なんか疲れたな。そう心の中で呟きながらバスを降りた。 「名前、お前学校楽しいか?」 寮へ帰ろうと足を進めた時、不知火がそう言って止めた。急になんだと眉を潜めると、もう一度同じ言葉が繰り返された。彼の話はいつも唐突すぎる。意味があるのかさえ分からない。 質問の答えはノー。好きで通い始めたわけじゃない。 「正直、何の為に通ってるかさえ分からない」 「そうか」 私はその言葉を耳にしてから寮へ帰った。 私がここにいる意味、存在価値、役割。全てが謎で、無意味で、どうしようもない。元の世界の『私』という存在が消えた今、ここにいる私の存在はまだ植え付けられていない。どこにもいないのと同じだ。 久々にこんな事を考えた。自室のベッドに寝転がるとため息が漏れた。 なにもかも、どうでもいい。頑張って生きる理由なんて無いんだ。 ← |