29 変な確信があった。次に夢を見たらきっと私の存在は… 寂しがりではない。寧ろ逆だ。しかしどうしてこんなに夢を見たくないのかと問われれば、それはきっと自分の存在は誰かの中に有り続けたいと願っているからだろう。本当は、少しだけ怖いのかもしれない。 そんなことを考えながら私は教室の机に座っていた。 「お、いたいた。探したぜ」 「なに不知火」 1人の空間だった教室の扉が突然開かれた。その方向へ首を向ければ不知火がそこに立っていた。私を探していたということは用があるのだろう。またしつこいのが始まるのか。あぁ面倒。 そんな私の思いを完璧に無視する不知火は、来いと言って私の手首を掴んだ。何なんだと思えばそのまま引かれて無理矢理歩かされる羽目に。この学園に来てから私はこいつに何回無理矢理歩かされたのか。最早数える気も起きない疑問だ。 着いたのは生徒会室。何で呼んだのか聞けば不知火は私に毛布を持たせた。蛇柄…。黄色で可愛らしい蛇の模様が入った毛布と不知火をじと目で見た。何をしたいんだ、一体。 「何のつもりだ」 「今此処で寝ろ。どうせあの後保健室で休んでないんだろ?」 「不知火はお節介とありがた迷惑って言葉を知ってるか」 「名前の事だから今日も寝ないんだろ。ほら、さっさと寝る寝る。」 私の言葉はスルーか。生徒会室のソファーに押し込まれ、無理矢理蛇柄毛布を掛けられていつでも寝れる状態になった。人間の本能は憎いもので、数日まともに寝ていない私の意識は簡単に落ちそうになる。何でこいつの言う通りにしなきゃいけないんだ。必死に眠気を耐えれば、不知火がソファーの横から私の顔を覗き込んできた。 「大丈夫だ」 そう言って私の頭に手を置いた。いつもの荒々しい手付きではなく、何か壊れそうな物を扱うようだ。私は驚きで目を見開いている。そして何故か振り払えなかった。 「怖い夢見ても大丈夫だ。俺は此処にいる。名前は1人じゃないから」 そんな言葉は子供騙しだ。それなのに…不知火の言葉は私の中に自然に入って安心感を広げる。温かい物に包まれたようだった。 30分だけ寝かせて。そう言葉を掛けて私は毛布を頭まで被った。 見た夢は予想通り過ぎて、寧ろ私は穏やかな気持ちで見ていた。 ただ最後に家族の中から私の存在が無くなった時、私はとてつもない寂しさと空虚感に教われた。私の帰るべき所が無くなった、そんな気持ち。 目を覚ますと不知火は自分の机で資料を捲っていた。私に気付いたのか、寝れたかと聞いてきた。でもそれどころの気持ちじゃない。正直、思ったよりもダメージを受けている。此処に存在する自分が怖くて、どうすればいいのか分からない。身を小さくして守ることしか出来ない。ソファーの上で膝を抱えていると不知火が隣に座ってきた。 「肩、貸すか?何なら俺の胸で泣いてもいいんだぞ」 何の冗談かは知らない。けど… 今だけは素直に頼りたい存在だった。肩にもたれるように倒れ込めば、不知火が頭を撫でてくれた。寝る前と同じ手付きで。それは私を安心させるのを少し手伝ってくれていた。 ← |