Monochro Campus | ナノ


24


目を覚ますと不知火の顔が真っ先に見えた。


「大丈夫か?お前かなりうなされてたぞ」


心配そうな表情の訳はそれか。じっとりとかいた汗が気持ち悪い。荒い息を整えながらいつの間にか掛けられていた毛布を剥ぎ、起き上がった。なんて目覚めだ。顔を洗ってくると一言声を掛け、生徒会室を出た。

見た夢が悪かった。水道から顔を上げ、自分が写る鏡を見る。何故あんなにリアルな夢を…。まるで現実と繋がっているような。
思い出したくない夢を脳内に押し込め、生徒会室へ戻った。

生徒会室では不知火が私の鞄を持って大丈夫かと声を掛けてくる。適当に大丈夫だと返して鞄を受け取った。不知火は私の鞄を渡すと、生徒会室の電気を消して部屋に鍵を掛けて出た。意外にも不知火は私の夢の事は一言も触れなかった。
時間は夜なのか廊下の窓から見えた外は真っ暗だった。不知火め、用事があるとか言いながら仕事時間かかりすぎだろ。まさかこれから更にどこか用事済ませに行くんじゃないだろうな?
私は歩く足を速め、不知火から一歩先を歩くようにした。


「おっと、そっちじゃねぇよ」

「は?」

「名前、こっち上がるぞ」


階段を下ろうと足を向けると首根っこを掴まれた。案外強く引かれてぐぇっと奇妙な声が出た。力の加減を考えてくれ。
そしてこっちだと言われたのが、階段の上り方向。いやいや、今からどこ行くんだ。私は早く寮に帰りたい。しかし奴はお構い無しに腕を引いたまま歩く。逃げられない私も渋々足を進めた。

着いたのは屋上庭園。こんな遅くに何の用事なんだ。春の夜はまだ寒さが残る。思わず身を縮めてその場から逃げようと試みる。が、掴まれたままの腕がそうさせてくれない。こっちだと歩かされ、屋上庭園にあるベンチに座らせられた。


「一体何なんだ、さっさと帰らせろ」

「そう言うな。ほら、上見てみろ」


不知火は得意気な顔で上を指差した。私はしょうがなくその方向へ目線を動かす。
その直後に息を飲んだ。不知火が綺麗だろと言った。綺麗だなんて一言で言えない。
私の頭上には空一面の星空が広がっていた。汚い空気と街灯やビルで星なんて見えない所に住んでいたから、この景色は初めてだ。星ってこんなに明るい物なのか。初めて出会った空に、私の心は惹かれていた。


「こんなに沢山の星、初めて見た」

「だろ。どうだ、星に興味湧いたか?」

「…まさか、そのためにわざわざ」

「ここに転校してきたんだから星に興味無いなんて寂しい事思うなよ。この学校に来た奴はみんな星が好きだ。だからお前も好きになれ、じゃないと楽しくないぞ」



不知火に私が星に興味無いなんて言った覚えは無いけど、事実興味も学ぶ意欲も無かった。不知火はそれを察してここに誘ってくれたのか。

ちょっとだけ、興味が出たかもしれない。そんなのは錯覚だと思うけど、私は見ていて飽きない空に目を奪われていた。




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