近距離恋愛 | ナノ


dilemma

「それ、一口頂戴」



梓と一緒の選択授業開始前、私は自動販売機で購入したパックのオレンジジュースを飲んでいた。梓は私と向かい合うように前の席で携帯を操作していたけど、突然声を掛けてきた。何食わぬ顔で座っているけどそこ、別の人の席なんだよね。
梓がオレンジジュース欲しいとか珍しいと思いながら紙パックを差し出す。彼はそのまま身を乗り出してストローを口にくわえた。

どきりとくるのもほんの一瞬。ある意味あーんなこの行為も、私と梓の場合は普通だったりする。逆も然り。
日常茶飯事で当たり前ではあるけど、私には意識してしまう行為でもある。私が梓に対する気持ちを意識してからは尚更だ。

梓が口を離すほんの数秒、その顔を見つめる。少し上から見る梓は、伏せがちな目が際立って綺麗だと思う。睫毛長いなぁとか、鼻筋が通っているなぁなんて考えてしまう。

ごちそうさま、そう言って離されたストローを私がまたくわえるのには勇気が要ったりする。
そんな何気ない授業開始前。


その日の放課後、私は授業の課題の為に図書館を訪れた。ちょっと難題な課題に資料が欲しかったのだ。
星に関する文章を眺める。難しすぎてさっぱり理解できない。一息つこうとした時、頭から肩にかけてずしりと体重が掛けられた。


「なーに見てのさ。調べ学習?」


頭上から聞こえた声に私は上を向いた。しかしあまり動かない頭はどうやら声の主、梓の肘置きになっているようだ。
これくらいのスキンシップはいつもの事だから気にしない。とは頭で考えても、心拍数が上がる。

宿題難しくて、と苦笑したら梓は横の席に座る。ゆっくりしているけど、今日は部活無いのかな?



「あぁこれ?これならもう終わったから教えれるけど」


私の疑問は余所に、梓は課題プリントを見ながら行った。どうする、なんて決まりきってる。
教えて下さいと頭を下げるのに時間はかからなかった。


梓が教えてくれた内容は本よりずっと分かりやすい。けれどすんなり頭に入らないのは、梓との距離が近いからだと思う。時々触れる身体の一部がじわりと熱い。
逆に梓は淡々としている。まるで同性を相手にしているような感じ。

これは、私女の子として意識されてないな。梓と触れる度、そんなことを考えていた。
もどかしくて、気付いてほしくて、私は声を荒げたくなる。けれども梓に抱いている気持ちがバレて、この温かい温もりが無くなるのは嫌だ。
よく女の子が読む雑誌に、好きな人にジレンマを感じるなんて書いてあるけど、私がそれを体験することになるとは思わなかった。気持ちが矛盾して、ぐるぐると頭に巡る。そしてそれが弾けそうになりながらも、結局いつも時間が過ぎ去ってしまいう。そうなると残されたのは膨らんだ恋心だけ。

もう脳内と心は梓でいっぱい。気付いてほしくて、触れたくて…でも知られて離れたくなくて。
私は大きくなる気持ちを抱えきれなくなりそうだ。

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