近距離恋愛 | ナノ


quarrel

徐々に知っていく梓は優しい人柄だと知った。ちょっと1年らしくないクールなところもあるけど、翼くんを交えてお昼ご飯を一緒に食べたり、選択授業での会話を通して仲良くなっていった。

…のも束の間だった。



「だから、どう考えてもここは行くとこじゃないでしょ」

「なんで!?梓行けなくても私が休みなんだから行けるでしょ!観測だってしっかりやれる!」

「そういう問題じゃない」

「じゃあどういう問題!?レポート提出するのに必要なことじゃん」

「大体観測は学園の屋上庭園でもできるよ、なんでわざわざ出掛ける必要があるのさ」

「わざわざ?なんでそんなめんどくさそうに言うの?屋上庭園じゃない地点からの観測もデータとして…」

「必要無い」

「必要!!」


私はもう相手にもしないという梓の呆れた表情を見て歯を食い縛った。ぼやける視界に暗示を掛ける、泣くなと。泣いても解決しない。泣いたら女の子だからって差別を受ける。負けない、泣かない。
私は手を握り締めると梓に背を向けて走りだした。


喧嘩のきっかけは意見の対立だった。
直獅先生の選択授業で、来週提出のグループワークのレポートに星の観測結果を入れたいと私が言い出した。学園の屋上庭園からの観測結果は多くのグループが入れている。だから違う所からの観測結果も入れたかったのだ。ちょっと遠出だけど、電車で行ったところに丁度良さそうな観測地があるからそこに行きたかった。
…私がいつもと違う所で星を見たいという気持ちもあるんだけど。

でも都合が悪い事に梓は週末に弓道部の大会があるらしい。だから私1人で行くと言ったら、あのような喧嘩になったのだ。



「梓と喧嘩したのか…?」


屋上庭園のベンチで膝を抱えていると、声を掛けられた。顔を上げると泣きそうな顔をした翼くんがいた。
間で板挟みになる翼くんの立場は辛いだろう。友達想いな翼くんなら尚更。
ごめんね、と言えば俺に言う事じゃないのだと消え入る声で言いながら隣に座った。


「…梓の分からず屋」

「梓も同じ様な事を言ってた」


思わずこぼれた不満を翼くんは拾って返してくれた。


「梓はさ…変なところで気持ちを伝えるのが不器用だと思うんだ。多分名前にキツいこと言ったのは、名前を思っているから…」

「…うん、うん知ってる」


翼くんに言われなくとも分かっていた。梓も翼くんみたいに友達想いなこと。私のためにああ言ってくれたこと。
でも梓にも分かってほしかった、私にもできるんだって事を。梓に頼ってばっかじゃないんだって。

そんな意地っ張りな私達だからぶつかったんだ。翼くんは私の気持ちが落ち着いたのを見て、いつもみたいな笑顔を見せた。


「梓も名前の気持ちを言えば分かってくれるのだ!」

「うん、ありがと。」

「あ、何ならこのマシ…」

「い、今すぐ行っててくるね!」


いつも着ているカーディガンから怪しい物を取り出す前に私は慌てて立ち上がり、梓を探しに走った。後ろから落胆の声が聞こえたけど、別の問題を勃発させるわけにはいかない。
ごめん、そしてありがとね翼くん。


梓を探しに行こうと屋上庭園を出ると、すぐ側の階段に求める本人がいた。まさか出た所にいると思わなくて私は驚いた。
そして梓の遅いの一言に更に驚く。待っていてくれたなんて思わなかった。私が来るって信じてくれたんだ。


「ごめん、梓…梓の気持ち考えてなかった。でも私もやれるって分かってほしくて…」

「あのさ、僕が観測を却下したのは名前じゃ出来ないからとかじゃなくて心配だから、分かる?」
「うん」

「観測するってことは夜遅くになるわけで、ただでさえ危ないのに遠出するなんて女の子の名前に行かせられないわけ。男女差別でも、これは譲れないから。」


分かっていてくれた。そして私が思っていた以上に心配してくれてたんだ。嫌いな女子だからという気遣いも、何故か嫌じゃなかった。
梓の言葉が嬉しくて、胸が跳ねるような感じがした。

でも、やっぱ観測は駄目か…。そう思っていたら、私の手が握られた。屋上庭園に入るように引かれる。


「しょうがないから、僕も着いて行くよ」

「え、でも大会…」

「これはグループ研究、個人じゃないんだよ」


そう言うと梓はベンチで待っていた翼くんを呼んだ。気付いた翼くんは手を繋ぐ私達を見て嬉しそうに笑う。そして私の空いている逆の手と翼くんの手を繋ぐ。

雨降って地固まるなんて言うけど、これをきっかけに梓と本当の友達になれた気がする。お互いが想い合って必要とする、そんな関係。
梓の心と隣り合うことができた日だった。

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