笑顔でシャッターを 好きだ。そう伝えられたのは、残酷にも卒業式の後だった。彼の右手には卒業証書が入った筒、向かい合う私にも同じ物。お互い、星月学園を飛び立とうとする瞬間だ。 私は驚きのあまり、動けなくなった。なんで今言うの?今この瞬間を選んだの?一樹は… 「卑怯だ」 「知ってる」 「私の気持ち知っておきながら」 「知ってたからだ」 強く握り締めた手は卒業証書を離そうとしなかった。足が震える。現実味がない夢のようだ。 私は一樹が好きだった。ずっとずっと、一方的な片想い。同じクラスの誉が気付いていたから、きっと一樹も知ってるだろうと思った。でも彼はなんの反応も見せなかった。ああ、きっと脈なしなんだ。いい友達として接しながら思っていた。 どっちにしても、進路は別々なのだ。いつか離れるなら、友達としてさっぱり分かれたかった。 …なのに 一樹は卑怯だ。もう一度言うとごめんなって言われた。そう言われた時には既に温かい何かに包まれていた。あぁ、抱き締められてるんだって、他人事のように思った。 温かくて、切なくて。カラカラとした吐息が漏れる。長い間、分厚いブレザーを通して体温が伝えられるほど抱き締められた後、身体が離される。温かさが急に無くなったことで、逆に襲ってくる寒さが強調されている。 「一番お前の記憶に残る告白にしたかったからな」 「別れる瞬間に言われたら一生記憶に残るに決まってるじゃん、馬鹿」 そしたらもう一樹から気持ちが離れることできないじゃないか。そう思ったが、意地でも言葉にしてやらない。 私が言わなかった代わりというように、冷たい風が私達の間を吹き抜けた。もう、春が来る。 一樹は制服のポケットからデジカメを取り出す。写真、一緒に撮るかと聞かれる。私は小さく頷いた。 自然に触れ合い、寄せられた肩。これが高校生活、最後に触れた一樹の体温になるだろう。 そしてこの写真が高校生活最後の一枚になるだろう。 「思いっきり笑えよ」 「急に言われても…」 「俺が働くようになって、お前を迎えに行くその時まで俺の傍に飾っておく写真だからな」 なにそれ。一樹だけズルいと言えば、お前にも写真やるから同じように飾れと言われる。つまり、もしも一樹が迎えに来るその日まで好きな人を作るなって言っているようなものだ。まぁ出来ないだろうけど。 私にはもし一樹が迎えに来なかったらなんて考えは無かった。ただ、一樹を信じるだけ。 寄り合う2人に向けられたレンズ。 私は最高の笑顔を作る。 さよなら、高校生活。 さよなら、星月学園。 さよなら、………一樹 笑顔でシャッターを 貴方が迎えに来るその日まで、さよなら 企画さよなら様に提出しました。 (2011.10.06) |