短編 | ナノ


Number.X

不知火先輩を好きになって後悔したことがある。
その持ち前の俺様っぷりに振り回されるわ、時々無神経な発言をするわ、横暴過ぎて疲れるわ、理不尽な要求するわ、颯斗くんの怒りのとばっちり受けるわ、翼くんの実験の爆発に巻き込まれるわ…

静かな生徒会室では珍しく不知火先輩が1人で真面目に仕事をしていた。何故か関係ない私は終わるまで待たされる羽目に。今日は課題がたくさん出されたから早く帰りたかったのに、彼女だって理由をこじつけて。横暴だという反論は俺だからなというどや顔で流された。
だから自分でも疑問になったのだ。なんでこんな俺様を好きになったんだろうと。上がってくる不満は数多い。私はソファーに座りながら指折り数えていると不知火先輩は資料から顔を上げ、不満そうな顔をした。


「おい、それはさすがの俺もへこむ。しかも最後2つ関係無いだろ」

「大有りですよ。」


そっぽを向いてそう言えば、不知火先輩は眼鏡を外して椅子から立ち上がった。仕事はいいのですかと聞けば、飽きたと返された。それだから颯斗くんの怒りを買うんだ。月子ちゃんが置いていってくれたクッキーを頬張る。サクサクでとても美味しい。
不知火先輩は同じソファーに座って私にもたれかかってきた。年上の背の高い男性は重たい。でも…温かい。


「他にも不満はありますよ」

「この雰囲気で言うのかよ」


不知火先輩は苦笑したが、気にせず続けた。

先に卒業するし、頭がいいから良い進路に進んで私を置いていくし、大人だし、余裕ばっかだし

そうまた指折り口にしていたらストップをかけられた。


「誰が余裕だって?誰がお前を置いていくって言った?」

「じゃあもう1年留年してくれるんですか」

「アホか。」


そう言うと不知火先輩は身体を起こして私を小突いてきた。留年してくれないのか。
残念だと思っていたら今度は横から抱き締めてきた。


「俺だって一緒にいるといつも緊張してんだ。そんくらい気付け。あと俺はお前を置いてくつもりはさらさら無いからな」

「じゃあどうするんですか」

「卒業したって何度も会いに来てやる。そしてお前が卒業したら迎えに行く」

「…気が早いなぁ」


そう言って誤魔化した。本当は泣きそうなくらいに嬉しかった事を。不知火先輩だから絶対来てくれると不思議なくらい信じていた。


先輩には言わなかったけど、不知火先輩を好きになって良かった事は更にたくさんある。指どころか数として表すにも足りないくらいに。たくさんの幸せに溢れていると思う。一緒にいるだけで笑顔になれる。
なんて言ったらきっと不知火先輩は調子に乗るから。言わないでそっと胸にしまっておく。

触れている身体が温かくて、安心する。いつまでもこうしていたい。
不意に好きだと伝えたくなり、小さく呟いてみた。きっと聞こえないだろう。そう思いながら盗み見した先輩は面を食らったような顔をしていた。しかしすぐに満面の笑みを浮かべ俺もだ、とおでことおでこをくっ付けた。

幸せは、数えるものじゃない。そう感じた。


数え方を知らないから

代わりに愛を囁くの


企画ゆめえがお様に提出しました。
ぬいぬいHappy Birthday!!

(2011.04.19)







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