君だけに愛を


立海テニスコート近くの少し大きめの木の陰に目的の人物はいた


声を掛けようと近付いて行く。と相手が一人ではないことに気付いた


ああ、またか......










「 ごめん、君とは付き合えない 」












精市が告白を断っている


俺は今までにこんな場面に幾度となく遭遇している。だから今更驚きも焦りもしない




暫くして今にも泣き出しそうな顔をした女子が俺の横を擦り抜けて行った



全く、精市も罪な男だ








「 あれ?蓮二。また覗き見してたのかい? 」




漸く俺の存在に気付いた精市が穏やかな笑みを浮かべて此方に向かってくる





「 そんなつもりはないが結果的には覗き見になってしまったな。すまない 」


「 フフ。冗談、冗談だよ 」



そう言って微笑む精市の頭の中は先程の告白をしてきた女子のことなどすっかり忘れ去られていて、既に他の人物のことを考えているのだろう



「 泣いていたみたいだが、」



そんな精市に俺は敢えてその事に触れてみる



――――が、






「 そう?


そんなことよりさ.... 」




精市の返事はこれだ。
"そんなこと"で先程の告白もあっさりと片付ける




「 聞いてる? 」





「 ああ。なんだ? 」






「 不二....がさ 」




精市の頭の中は"不二周助"のことしか考えていないのでないか?


精市にそんなことを言えば彼は瞬く間に不機嫌になり否定するが




「 ..蓮二?聞いてるの? 」





精市が怪訝そうな瞳で見つめてくる



「 ...ああ、不二がなんだ? 」



「 不二がさ、今日こっちに来るんだ 」




「 ........ 」



精市にそう言われて俺は彼を探していた目的を思い出した


...忘れるとは...俺も弛んでいるな..。







「 そうだ、精市。不二..くんが部室で待っているぞ 」



「 ...部室に?もう不二来てたんだ



じゃあちょっと行って来る。ありがとう、蓮二 」




「 ああ、」






精市は部室に向かう為少し早足にテニスコートに通ずる階段を上がって行った




「 そんなに心配しなくとも不二には誰も手は出せないのにな 」




精市の恋人に手を出す程うちの部員達は命知らずじゃないからな



俺は苦笑いを浮かべつつ精市の後を追うように一足遅れてテニスコートへと向かった






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