うきしずみたゆたう想い

「一緒にいると、苦しいんだって。傍にいるのが辛いんだって。それが、恋じゃないってことは分かるんだ。だけど…」
「罪悪感を、恋と勘違いしてるのね」
工藤新一の記憶は全て失って、最後に残ったモノが罪悪感だなんて。
残すべき大切なモノは他にいくらだってあるというのに。例えば俺への愛とかさ。
「工藤くんの中で、一番大きかったのが蘭さんへの罪悪感だったって事。
…あなたたち、付き合ってたんでしょう?本当に上手くいってたの?」
「当然!って言いたいとこだけど…何か自信なくなってきた…」
「そんなに弱気なの、あなたらしくないわ」
確かに、らしくなんかないんだろう。
正直なところ、結構参ってる。
「…ショックだったんだ。例え勘違いでも、俺以外のことを好きって言われて、それも十分ショックなんだけど」
というか、コナンが記憶喪失になってからはショックを受けることばっかりで、そのうち感覚が麻痺してしまいそうだ。
「俺さ、コナンがこんなに蘭ちゃんのこと気にしてて、吹っ切れてないんだって、全然気付いてなかったんだ」
「仕方ないんじゃない?彼、あまり表に出さないもの」
珍しく、慰めるような調子で哀ちゃんが言う。
「貴方が気に病むことないわ。蘭さんではなく貴方を選んだのは、他ならぬ彼自身なんだから」
「そうなんだけど…」
やっぱり恋人の苦しみに気付けずにいた自分が、歯痒くて情けない。
「どうしても気になるって言うなら、工藤くんの記憶が戻ってから何とかしなさいよ。今くよくよしてても意味ないでしょ」
「…そうする」
見た目小学生の少女に励まされる俺。何だか更に情けない気がする。
「じゃあ、とりあえず今はどうするべきなんだろ」
苦しいと顔を歪めたコナンのために、一体何ができるだろうか。
「記憶を失う前と同じ環境にいた方がいいことは確かだわ。でも、そこにいることで強いストレスが生じるとしたら、記憶を取り戻すどころじゃないでしょうね。罪悪感なんて…ただの小学生には重過ぎるから」
その考えには同感だ。
問題は場所をどうするか…
「あなたの家に引き取ればいいじゃない」
「う〜ん…俺もそうしたいのはやまやまなんだけど…」
「何か問題でもあるの?」
「うん、母さんは大歓迎すると思うんだ。でも…」
「何よ?」
さっさと言えと促されて、一番気掛かりなことを打ち明ける。
「…欲求不満のあまり襲っちゃうかもしれない」
「…警察呼ぶわよ」
そう言いつつ哀ちゃんは既に受話器を手にしていて。
冗談だって、と慌てて止めた。
実際のところは紛れもない本音だ。そんな訳で…
嬉しいような嬉しくないような微妙な心境のまま、まさかの同棲生活が始まった。いや、どう考えてもただの同居なんだけど。



2010.3.25
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