明日また、君に会いに行くよ。

「そもそもどうして記憶喪失なんかなっちゃった訳?三日前に会った時はいつもどおりだったのに」
数時間が経過して何とか落ち着きを取り戻した俺は、哀ちゃんから詳しい事情を聞くために別室へ移動した。
「まぁ、貴方は知らなくても無理ないわね。彼、二日前の下校途中に、車に轢かれそうになった子供を助けたのよ。引っ張った反動で地面に転がって、その時の頭の打ち所が悪かったみたい。病院で目を覚ました時には、自分の名前も何もかも忘れていたわ。本当は高校生だったってこともね」
「二日前って…何で俺に教えてくれなかったのさ!?」
「“お仕事”に差し障りそうだったからよ。どうせ今日になれば飛んでくるのは分かりきっていたし」
気を遣ってあげたのだから感謝しなさい、と言われて言葉に詰まる。
確かに、このことを二日前に聞いていたら、キッドどころじゃなかったかもしれない。
飛んできてしまったのも本当だし。
何で昨日来てくれなかったんだよ、と文句を言うために。

二日間コナンと会っていなかったのは、昨晩がキッドの予告日だったからだ。
毛利探偵が呼ばれていたから、当然名探偵もついてくると思って、どんな事態にも対応できるように万全の準備をして勝負に挑んだ。
結果、名探偵は現れず、トリックを難しくしすぎたせいで警察の追跡は全くなく、勿論目当ての宝石があっさり見つかるはずもない。何ともすっきりしない犯行だった。
まさかこんなことになっているなんて、思いも寄らなかったけれど。
「まぁ、とりあえず異常がある訳じゃないから探偵事務所に戻って、今日は二人とも家を開けるってことで、一応ここに預けられたのよ」
その時、遠慮がちなノック音と共にコナンが顔を覗かせた。
「えっと…灰原、さん?」
呼び掛けられた哀ちゃんが、何ともいえない微妙な表情を浮かべる。
「“さん”はいらないって言ったでしょう?貴方にそう呼ばれると、不気味だわ」
冷静そうに見えて、実は哀ちゃんもそれなりに戸惑ってはいるらしい。
コナンは、だって灰原さん大人っぽいし、と取り巻きの子供たちのようなことを口の中で呟いている。
「コナン、何か用あったんだろ?」
「あ、うん」
頷く仕種が子供そのもので。
ちょっとだけ…可愛いと思ってしまったり、素直すぎて怖かったり。とにかく違和感ありすぎだ。
「蘭姉ちゃんが部活終わったみたいだから、帰るね。もうそこまで来てるんだって」
「そっか。また明日な、コナン」
心の中のモヤモヤは隠して明るく笑う。
「お兄さん明日も来るの?」
不思議そうに聞いてくるコナンの頭を優しく撫でた。
「毎日でも来るよ」
「…どうして?」
子供扱いするなよって、振り払われないのがすごく寂しかった。
「んー、その答えはコナンが自分で見つけて?」
見つけてくれないと寂しいから。
逡巡したような間を置いて頷いたコナンはきっと、何のことやら全く分かっていないんだろう。



2010.3.15
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