どうか、どうか、すべて嘘であれ

恋人が、記憶喪失になりました――


「はじめまして」
視界がぐらりと揺れるくらい、ショックだった。
食卓にずらりと魚料理が並んでいたとしても、ここまでの衝撃は受けないと思う。おかしな例えだけれど。たぶん。
とんでもない間抜け面を曝している自覚はおおいにある。
後ずさった姿勢のまま身体が動かないし、口は意味もなく開閉を繰り返す。
「あ、もしかしてお兄さん、僕と知り合いだった?」
申し訳なさそうにコナンが言う。
知り合いどころじゃねーよ、おまえの恋人だよ、と力の限り叫びたい。
「僕、記憶喪失になっちゃったから何も覚えてないんだ。
ええと…お兄さんの名前は?」
あぁもう本気で泣きそう。
思わず涙目で、傍観を決め込んでいる哀ちゃんに縋った。
哀ちゃんは、仕方ないわねと言いたげにため息をつく。
「彼は黒羽快斗。近所の高校生よ」
脱力。
「…もうちょっとましな紹介してほしいなぁ」
「文句があるなら自分で言うのね」
と言われても。
見た目は十も年下の、男の子相手に。まさか恋人です、なんて言える訳ない。
「うーんと、コナンとは特別に!仲が良かったんだよ」
それとなく“特別”を強調してみた。だけど、対して返ってきた答えといえば。
「友達ってこと?こんなに年が離れてるのに変なの」
「……」
今度こそ俺は、立ち直れそうにないと思う。



2010.3.13
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