おかえりの儀式

予定より数日早く帰還してしまったせいか、迎えは彼一人きりだった。

爽やかと表するには甘すぎる笑顔で、言われる。

「おかえりなさい、ユーリ」

いつもならおれの第一声は、「陛下って呼ぶな名付親」なのだが。

「た、ただいま」

出鼻を挫かれてしまった。
相も変わらずずぶ濡れの身体に、ぽふんとタオルを被せられる。

「ユーリ、お元気でしたか?」

「お、おう!」

「ずいぶん冷えていますね……ユーリ、まずは風呂に入ってください」

他人行儀に陛下と呼ばれるのは好きじゃない。この声に名前を呼ばれるのが好きだ。けれど。

「さぁユーリ、こちらへ」

一言話すたびにユーリ、ユーリ、ユーリ。これはこれで何となく鬱陶しい。

「なぁ、コンラッド……どうかしたの?」

「どうかとは?」

「なんか、あんたが変だから」

「そんなことありませんよ、ユーリ」

……まただ。

「絶対変だ!何でそんなに連呼するんだよ、おれの名前!」

「すみません、陛下。暫く呼べなかったもので、すっかりユーリ呼び欠乏症に……」

なんだそりゃ。

呆れるしかない症状だ。
しかしそれよりも今は、と思う。結局、おれには言いたくて堪らない台詞があるのだ。

「……陛下って呼ぶなよ、名付親」

この台詞を言うと帰ってきたって感じがする。
コンラッドが嬉しそうにニッコリ笑った。

「わかりました、ユーリ」

それはもう幸せそうに名前を呼んだ。



そして、再び振り出しに戻る。

一言話すたびにユーリ、ユーリ、ユーリ、ユーリ。やっぱり少しだけ鬱陶しい。
……なんて思ってはいけないんだろう。たぶん、今度のは自業自得だ。



END

2013.11.3




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