大人と子供、貴方と俺

先日、おれはとうとう恋人いない歴イコール年齢の黒歴史にピリオドを打った。しかし残念ながら彼女いない歴にピリオドが打たれる日は一生来ないだろう。
それで構わないと思っている。

「坊ちゃんってぇ、アタシのどこが好きなのぉー?」

そう、確かに彼女を作った覚えはないのだ。
女言葉が聞こえるけど。なんかアタシとか言われてるけど。
隣に腰掛けているのは断じて彼女ではない。上腕二頭筋も眩しい彼氏である。

例の如く諜報活動で国外に出ていた彼は、先ほど王都へ戻ったばかりだ。グウェンダルへの報告を終えた後、おれの部屋へ顔を出してくれた。夜も遅いしと遠慮してすぐに帰ろうとした彼を、何とか引き止めてベッドの上まで引っ張り込み、支障のない範囲のお土産話を聞いていたのだが。
話が途切れたと思ったら、唐突に「アタシのどこが好き?」と来た。
グリ江ちゃんモードが入っている彼に真面目な返答をする気も起きず、

「どこって……筋肉?」

真っ先に思いついたものを挙げてみる。
特に上腕二頭筋が大好きだ。というか正直羨ましい。
彼と並んでいるとますます自分の体が貧弱に見える。
知らず送ってしまう羨望の視線。

「ガーン……」

ヨザックは、割と本気でショックを受けたらしかった。

「グリ江の筋肉しか見てないだなんて……陛下ったら酷い!」

割と本気で嘆いている。それでもやっぱり女言葉。
せっかく恋人という関係にまでなったのに、いつまでも「坊ちゃん」とか「陛下」としか呼んでくれない彼も、少し酷いと思うのだが。

「そりゃあ筋肉だけだろうと、坊ちゃんが好いてくださるのは嬉しいんですけどねぇ……」

思いながらも、わざとらしく溜め息なんかつき始めた恋人を宥めにかかる。

「うそうそ!筋肉だけだとか冗談だから!」

「坊ちゃん……」

恨めしそうな目で見られた。
そういう質問は真面目な口調で聞いてほしいんだけど。というような主旨の弁解をしたら、ふざけずには聞き辛いのだと返される。

「真面目に聞くの恥ずかしいじゃないですか」

「恥ずかしいって……」

絶句。

名付親に負けず劣らず百戦錬磨のはずの大人が何言ってるんだか。
思わず声を上げて笑ってしまった。



どこが好きかなんて真面目に聞かれたところで、それこそ恥ずかしくて答えられない気がする。
敢えて言葉にしてみるなら。

「そういうとこも好きだよ」

の一言が、お子さま兼恋愛初心者の限界だった。
ついでに逞しい肩へ寄り掛かってみる。
嬉しそうにギュッと抱き寄せられる。

「オレも大好きですよ、坊ちゃん」

結局また坊ちゃん呼びだった。



END

2013.8.11

title:capriccio




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